森岡書店代表の森岡督行さんが、銀座の過去、現在、そして未来をつなげる新しい物語です。時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。
現代銀座考 : XXXIV
「よしや」の「どら焼き」から
毎週日曜日の21時になると、東銀座の「木挽町 よしや」(*1)の三代目・斉藤大地さんと、ロバート・キャンベルさんによるトーク「I love GINZA!! 銀座好きの集い。ひと・もの繋ぎプロジェクト」が、クラブハウスにて始まります。この配信は、2021年9月12日現在、回を重ねること30回。毎回、ゲストがおすすめする銀座のお店を紹介し、それをもとに今後銀座のマップをつくることが予定されています。
私も幾度となく参加しましたが、これまで、まったく接点のなかった銀座の方々とも、ことばを交わすことができました。オンライン上での出来事ですが、先行きの見えない時代にあって、きっとこの先の何事かにつながっていく予感がします。斉藤さんは、コロナ後の銀座のあり方を、誠実に、探し続けています。
斉藤さんが三代目を務める「よしや」は、1922年創業の老舗和菓子店です。関東大震災や敗戦、バブル崩壊を乗り越えてきました。歌舞伎座の近くに立地し、斉藤さんが「銀座一小さな和菓子店」と呼ぶように、確かに、小さなお店です。しかし、一歩店内に足を踏み入れると、壁にびっしりと掛けられた焼印の数々に、目を見張ります。誰の印、どこの会社、何という文字。「よしや」では、手づくりの「どら焼き」に、オリジナルの焼印を入れることができるのです。私も「森岡書店」の焼印をつくってもらうことにしました。こうすれば、手みやげに、森岡書店の名入りの「どら焼き」を持参することができます。
一方、ロバート・キャンベルさんと私は、実に、長いつきあいで、最初に出会ったのは、もう23年も前。当時勤務していた神保町の古書店が所有する和本を、ロバートさんが調査に来ていました。以来、道で会ったり、駅で会ったり、街で会ったり、特に約束したわけでもなく、よいタイミングで出会っては、そこでの立ち話がきっかけとなり、テレビ番組の企画になったり、某図書館での講演会になったりしました。ロバートさんは『銀座百点』(*2)で銀座について連載していたことがあり、銀座についても詳しいです。柔らかいお人柄は、23年前からまったくかわっていません。
先日の配信中(クラブハウスの?)に、私がロバートさんのご自宅の近くにいたため、ご自宅に徒歩で訪問しようとしたところ、軽妙な言い回しで、拒絶されました。ロバートさん曰く「玄関の表札をはがしておく」「表札にマスキングテープを貼っておく」。ロバートさん、次回は、どうか門扉に立って私を迎えてやってください。もちろん、そのときは、「よしや」特製の、「森岡書店」の名入りの「どら焼き」を持参します。あ、そういえば、「よしや」の焼印のなかには、ロバートさんの事務所「ある日のこと」がありました! 手みやげのなかに、1個だけ、「ある日のこと」印の「どら焼き」もつくってもらおう。つくづく、商品とは、人と人のコミュニケーションの手段なのだと思います。
東京都中央区銀座3-12-9
*2 銀座百点/銀座のかおりをお届けする雑誌として1955年に創刊。情報だけでなく、銀座の文化を表現することにポイントに記事が掲載され、銀座の人のみならずさまざまな人々に愛されている。