普段、会話で“不協和音”というと、どちらかといえば悪いイメージがあるが、音楽の世界では必ずしもそうではないのだなぁ、としみじみ感じたのが、先日観に行ったミュージカル「スウィーニー・トッド」。理髪師の復讐劇ということで、スパッ! スバッ! とカミソリで首を掻き切る場面がリズミカルに登場する少しホラーな内容なのだが、楽曲にとにかく圧倒された。
美しい旋律が聞こえたかと思うと、いつの間にか不協和音のコーラスに変化する。聞いていて心地よいメロディではなく、最初は違和感を覚えるくらいなのだけれど、不思議と心に残って、何だか気になる。嫌いじゃない。いや、むしろ好き??……。月曜夜の観劇から、もうその週はずーっと不協和音が頭に鳴りっぱなし。心を揺さぶる強烈な印象が残った。
不協和音=異質な音を含んだからこそ実現する力強い響きは、調和のとれたハーモニーでは表せない鮮烈なイメージを投げかけてくれるのだ。
実は、次の秋冬シーズン、ファッションでも、心をザワザワさせる不協和音的なルックが多く登場している。
プラダは、見る者をハッとさせるような異質さを取り込んだ力強いスタイルで、コーディネートはかくあるべしといった固定観念を軽やかに飛び越えた。コートの上にコルセット、頭には純白の水兵帽、首元やウエストには手帳やカギ形チャームをじゃらっと下げて、女学生風のアーガイルタイツに上品なアンクルストラップまたは登山靴風シューズ。
印象の異なる様々なモチーフが、巧みに配置されたファッションの背景には、女性の心の断片をコラージュしたい、という思惑がある。情熱的でひたむきな時もあれば怠惰に浸りたい時もある、強くて弱い、堅実さと軽薄さなど、どちらか片方にすっきりと割り切ることのできないのが女性の心境。たとえ矛盾したとしてもそれがありのままの姿であり、その複雑さが美しさなのだ。
先のミュージカルを作曲したブロードウェイの巨匠ソンドハイムが、不協和音を各所に盛り込んだのも、キレイごとではない、リアルな人間像を描きたかったから。この秋、ファッションスタイルでも、調和した想定内におさまらない―心をザワつかせるような、ありのままの美しさを表現したいという気持ちが大きく広がりそうだ。
(Cover Photo: Courtesy of PRADA)