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Heart of Fashion

2016.06.13

靴下風シューズを求めるワケ

文/呉 佳子

「おみこし担ぎたい!」

と子どもが言い出すので初めて参加した地元のお祭り。山車と神輿の行列に加わり、ゆるゆる歩いていくと、300mほどで「はーい! 止まって~」。おもむろに町会の人たちがアイスを配り始めた。もう休憩? と思いつつお茶を一杯。その後再出発した行列は、さらに500m進んでストップ。「順番だからね~」と浴衣姿のおばちゃんたちが段ボールからお菓子を配給し始める。一同また休憩。……その繰り返しで近所を練り歩くこと1時間。いつもは食べる時間を厳しく制限されているのに、今日は5分歩くたびに、大人たちがスナックやらアイスやらクッキーやらジュースやらを差し出してくれるのだから、もう子どもは半狂乱です。

さて、そんな週末の喧騒の中、周りの人が履くお祭り足袋を、眺めるともなく眺めていて「もしや、これはあれなのかしら?」と、思い出したのが、アクネ ストゥディオズの2016年春夏コレクション。

ジャケットを再構築した大胆なデザインに、メリハリの利いた色使い、ポップなプリントのファッションに合わせたシューズは、靴……下?

Photo Copyright ©Acne Studios

そう、昔ながらの靴下に極薄のラバーソールを貼り付けた、靴下風シューズが登場したのだ。すらりと伸びた足にぴったりフィットするシンプルなデザインは、見るからに軽快で活動的。足さばきに何の抵抗もなく、ウォーキングする姿はまるで風に乗っているよう。

ここ数年、継続して高いヒールよりもフラットな=ラクなシューズがトレンド傾向だ。「抜け感」、「こなれ感」、「エフォートレス」をキャッチフレーズに“おしゃれなのに無理していない風”、“肩ひじ張っていない風”が良しとされる。要は自然体ということで、やはりそこを突き詰めていくと、どんどん身体そのものに近い存在になっていくということか。日本の地下足袋も表現は違えど、素足の快適さを失わずに機能を強化したものであり、考え方は同じ、と神輿の傍らで一人ひらめいたわけである。

ところで、この靴下風シューズ、続く2016−17年秋冬でも、様々なブランドで、バリエーションが提案されている。靴下のようなストレッチレザーブーツ、靴下素材のスリッポン、サンダルの中に靴下が内蔵されているもの(残念ながら洗濯は不可)などなど。先陣を切ったアクネ ストゥディオズも春夏での評判を受けて、秋冬は新色を追加した。

ひところはコレクション会場では、特にフロントローに座る場合はヒールじゃないと、という雰囲気があったが、ラク靴トレンドのお陰で、今やスニーカーやスリッポンも全く大丈夫になった。お次は靴下風? この秋に期待です。

(Cover Photo Copyright ©Acne Studios)

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。
オンラインサロンcreative SHOWER でナビゲーターを始めました!
まるでシャワーを浴びるかのように、美意識や感性に刺激を与える時間を重ねようというコンセプトです。ご興味のある方はぜひこちらをのぞいてみてください。
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