毎年2月末と9月末に行われるミラノのファッションウィーク。初日のクライマックスは、なんといってもグッチのショーだ。ウィメンズとメンズ合わせて90~100ルックのきらびやかな行進は、まるでめくるめく絵巻物のよう。コレクション披露の場である舞台設定も注目の的だ。1年前に移転したグッチ本社(飛行機の格納庫を改装)の広大な空間での大がかりな演出が毎度話題を呼んでいる。こけら落としとなった去年初めのショーでは、長いチューブ型の回廊が現れた。その翌シーズンは、がらっと様相を変え、まるで美術館の遺跡フロアのように、至るところに神殿風アーチや彫像、オブジェを設置。謎めいた演出は来場者の深読みしたくなる知的好奇心を大いに刺激する。さて、2月末に発表された2018-19年秋冬シーズンも様々な「謎」が仕掛けられたコレクションを紹介しよう。
1. 刻々とカウントダウンする招待状
今季の招待状はビニールパッケージの中に「WARNING!(警告)」と大きく書かれたオレンジ色の箱。裏返すとデジタル表示の数字が刻々と減っていく。ショーまでのカウントダウン?爆発物を連想させる怪しいパッケージに否応なしにショーへの期待感が高まる。
2. 会場には手術台
前シーズンもその前も色のついたライトを使い場内を薄暗くしていたが、今季は一転、会場に入ると蛍光灯でクリアな視界!爽やかなライトブルーのフロアに、壁は一面グリーンだ。と思いつつ会場奥へ進むと、ランウェイのところどころ、真ん中に鎮座するのは……、手術台?! 上部にはいかにも手術時に使用といったライトが設置されている。爽やかと見えた床も壁も、思えば手術服の色からきていたのだった。
3. テーマは「サイボーグ」
会場入り口で渡されたリリースには、「CYBORG」のタイトル。クリエイティブディレクターのアレッサンドロ・ミケーレが今回インスピレーションを受けたのは、思想家ダナ・ハラウェイの『サイボーグ宣言』(1984)なのだそう。ハイブリッドに絶えず変化するアイデンティティの新しいあり方を“サイボーグ”と呼んでいる。
4. クラッチじゃなくて生首
会場をあっと言わせたのは、クールに歩くモデルが手にした、彼女そっくりの生首。まるでクラッチバッグのように小脇に抱えて平然と歩く姿は今季最高のシャッターモーメントだった。ただこの頭部のレプリカ、単にセンセーションを狙ったわけではなく、ミケーレの深い思いがあるようだ。
「グッチサイボーグは人間の進化形。手のひらには目、頭には牧神ファウヌスの山羊の角、そしてドラゴンの赤ちゃんを抱き、二つの頭を持つ。…中略…(グッチサイボーグは)解き放たれる可能性を象徴するものであり、この象徴を通してこそ、我々は自分が何者であるかを決めることができる」(英語リリースを筆者が訳出)。
5. カルチャーザッピング感覚のコラボ
ファッションだけにとどまらずアートやカルチャーを中心に様々なジャンルへと広がるコラボレーションにも注目。今季は、米国メジャーリーグや映画会社パラマウントのロゴマーク、ラス・メイヤー監督のカルト映画『ファスター プッシーキャット!キル!キル!』のタイトル、そして日本のスポ根もの少女漫画『ビバ!バレーボール』(井出ちかえ)のイラストなど、個性の際立つものばかり。その一つ一つがグッチの万華鏡のような世界観を彩り、全体としての魅力と迫力を増していた。
6. これぞグッチの真骨頂な着こなし
一つ一つのアイテムを見ると着やすいが、コーディネートで面白さや今っぽさを出すグッチらしさは継続。ドレスの下にパンツを履くなどは当たり前。メッシュのガーメントケース風のケープをスーツの上にすっぽりと被って、不思議なニュアンスを出すなど、新アイテムも登場している。アクセサリーでは首元から腰までのボディジュエリーや、覆面プロレラーのようなマスク、ロシアのバブーシュカ風スカーフなど、懐かしくて新しいものが集まった。