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Heart of Fashion

2024.07.03

TOGAデザイナー・古田泰子のこれまでとこれから(後編)

文/呉 佳子(資生堂ファッションディレクター)

ポートレート写真/kaho kikuchi

古田泰子によるTOGAは1997年の設立以来、モードの最前線を走り続けている。インタビューの後編では、今年3月にオープンした旗艦店の話から、このところの社会情勢、そして未来の展望まで、話題は多岐に及んだ。
<前編はこちら

心地良い時間が過ごせる場所

――今年3月には、都内の旗艦店としては2店舗目となる青山店をオープンしました。
近隣には原宿店や渋谷パルコ内のショップがあるので、出店戦略としてはおや?っと思う方もいるかもしれませんが、「さまざまな境界を超える場所」として青山という場所は外せませんでした。
ブランドのベースにある「境界を超える」をキーワードに、時代や世代、性別、ジャンルの垣根を超えるような工夫を仕掛けています。
たとえば、TOGAにとって大切なアイデアソースである古着は厳選し、TOGAらしい手を加えたコレクターズアイテムとして展開しています。
ブランドを始めてから27年経ち、親子連れで買い物に来て下さる方も多いので、初めてキッズラインの靴をつくりました。
またファッション以外でも、陶磁器など私がセレクトしたものを扱ったり、店舗内にギャラリーを併設したり。「トーガ トライアングル」と名づけたこのギャラリーは、名前の通り、三角形の独立したスペース。多角的に広がるローカル・コミュニティと連携しながらエキシビションを企画・発信していきます。店内で過ごす、服以外にふれる時間を意識しています。

旗艦店TOGA AOYAMAは3月にオープン。店内デザインを手掛けた建築家の日埜直彦さんは、「TOGAの象徴、たとえば色や異素材の組み合わせが背景に沈むことなく、刺激的になるように組み立てています。一つひとつのモチーフの個性が強いので、全体がバラバラに見えないよう気を配ることも必要でした」と語る。
洞窟のような壁面やアスファルトの床など通常は屋外で使われる素材を用いることで、TOGAブランドのベースにある「境界を超える」というコンセプトを表現している。
古着に手刺しゅうなどでTOGAのスピリットが埋め込まれた究極の一点モノ、コレクタブルビンテージも展開。
「トーガ トライアングル」はその時々で自由な展示をするスペース。アートや本、映画など分野を問わないテーマで、古田さんのクリエイションのバックグラウンドを垣間見ることができる。
古田さんがセレクトしたライフスタイルプロダクトの品揃えがあるのも青山店の特徴。現在はセラミック作家ジュード・ジェルフスの花瓶やオブジェが並んでいる。もともと古田さんが彼女の作品のファンで、個人的に愛用していたことがきっかけ。
(写真:筆者撮影)

社会問題に絡めてファッションを考える

――青山店を訪れると、古田さんが今、気になっていることや興味をもっていることの一端に触れられる、ということですね。いつも古田さんの時代感覚の鋭さに驚かされますが、何か意識的に取り入れている情報などあるのでしょうか?
新聞を読むのが好きなんです。ファッションの世界に浸かっていると見えづらいのですが、新聞を読むことで、私たちの当たり前はかなり異質なのだなと気づかされます。土曜日に少しの時間だけでもいい、新聞を読むと、介護問題や高齢化や、社会に起きている問題に思いを巡らす機会になります。そういう問題に絡めて、服についてあらためて考えてしまいますね。

――具体的にいうと?
死に向かう人のための服を考えています。絶対に避けて通ることのできない道だし、そのときにどんな服をまとっていたいのだろう?と。
少子高齢化の社会では死にゆく人も増加しているわけだから、服という面でも選択肢を増やしたい。オシャレが大好きな私たちのための、ベッドでも病院でも着心地よく自分らしく見える服。最後まで私らしくいたい、ということに繋がると思うんです。

――なるほど、TOGAの信念に繋がるわけですね。27年間を振り返れば、人々とファッションの距離感も変わってきているような感じがしますが、古田さんはどうご覧になっていますか?
最近は服やモノが理念になっていると思います。たとえばこのデザイナーの考え方が好きだから買いたい、いくらモノが良くてもデザイナーの考えが好きじゃなかったら買わないなど。とくに若い方はブランドが掲げる理想や信念、思いについてシビアに見ている。
買い物することはただの消費ではなく、ブランドの信念に一票投じることだと思うんですよね。意思をもって買う。流して買わない。それって良いことだと思います。そんな覚悟を持って買い物をすれば、おのずと服を大事にしますよね。
作り手としての私たちも信念を大切にしながら、モノづくりを続けていきたいと考えています。

最新シーズンの24-25年秋冬コレクション。キーワードは「Dress-up, Undress, Romanticism」で、びっしりと連なるラッフルの過剰さが今季のムードを物語る。

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。
オンラインサロンcreative SHOWER でナビゲーターを始めました!
まるでシャワーを浴びるかのように、美意識や感性に刺激を与える時間を重ねようというコンセプトです。ご興味のある方はぜひこちらをのぞいてみてください。
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