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Heart of Fashion

2023.08.04

メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」の圧倒的な没入体験。

文/呉 佳子(資生堂ファッションディレクター)

東京・渋谷で開催されているメゾン マルジェラのインスタレーション、『シネマ・インフェルノ』。クリエイティブ・ディレクターをつとめるジョン・ガリアーノの創造力の渦の中へと、否応なしに飲み込まれてゆくかのような、濃密な鑑賞体験が用意されている。

そもそもの始まりは去年7月、パリ・シャイヨー宮にて、メゾン マルジェラがアーティザナルコレクション(マルジェラでのオートクチュールの名称)を『シネマ・インフェルノ』というパフォーマンス作品として発表したことにさかのぼる。
この時のショーは、通常のランウェイとは全く違う物語仕立ての発表だった。舞台には新作を身につけたモデルや俳優たち。面白かったのは、本来なら裏方のカメラマンたちも舞台にいることだ。ライブ撮影の映像は録画映像とミックスされて正面スクリーンに映し出された。ロンドンの演劇カンパニーImitating the Dogとのコラボで実現したその作品は、演劇と映画、LIVE配信、そしてファッションショーの要素を備え、芸術的な完成度の高さで大きな話題を呼んだのだ。

ガリアーノが紡ぐ物語の世界へ

その『シネマ・インフェルノ』の世界がそのまま渋谷にやってきた、というのが今回のインスタレーションだ。2フロア構成の会場1階には、モデルたちが着用したコレクションが物語の雰囲気そのままに展示されている。地階のシアターは前方だけでなく天井も床も鏡面張りで、作品の世界にどっぷりと浸り、実際に舞台が目の前で進行しているかのような臨場感だ。

会場地階では、昨年7月のパフォーマンス『シネマ・インフェルノ』を撮影し、編集したデジタル版が上映される。

物語の舞台は1960年代半ばのアメリカ南西部。子連れ同士の結婚で義理の兄妹となった主人公のカウントとヘンは、道義上の葛藤を抱えながらも愛し合うようになる。二人の結婚に反対する横暴な両親を思わず手にかけてしまったことで始まった逃走劇。追手のカウボーイたちの亡霊のような影を振り払おうと、アリゾナの砂漠の中、車を飛ばす。フラッシュバックする過去と不穏な夢が交錯し、いつしか二人は逃げ場のない無限ループの世界へと堕ちてゆく。

ジョン・ガリアーノいわく物語を伝えることは「オートクチュールのアプローチの基礎」。物語、つまりは感情に乗せて発表することで服に魂が宿る。
インフェルノは烈火、地獄のような光景という意味。『シネマ・インフェルノ』は不穏な美しさに彩られたダークでポエティックな物語だ。

アーティザナルは創造力を遊ばせる“実験室”

メゾン マルジェラでは、アーティザナルをクリエーションの最高峰と位置付ける。ピラミッドで言えば頂点、香水で言えば最も濃縮された“原液”だといい、プレタポルテラインなどメゾンのそのほかの商品へ派生されるコンセプトや技術が生まれる場所だ。さながら実験室のように、そこでは型破りのアイデアこそ求められている。
たとえば、ヘンが着ていたこの黒いドレス。裾を飾るフリンジの素材は、なんとゴミ袋だそう。フェザー(羽根飾り)のようにならないかと試行錯誤を重ね、細く伸ばしてねじり上げヒモ状に。インダストリアル、あるいはジャンクとでも言おうか、一風変わったエレガンスが目を引くドレスに仕上がった。

黒いビニールのゴミ袋素材を使用した裾飾り。
ウサギ耳のボンネット(帽子)の素材もゴミ袋。
コレクションの中でも必見なのは砂嵐にさらされたようなディテール。
吹きかけられた砂のようなディテールはフロック加工やビーズ刺しゅうで表現。

これら会場展示品はオートクチュールなので、通常は店頭に並ばない。そんな貴重なコレクション、趣向の凝らされた細部までを間近に見ることができるのも本インスタレーションの見どころの一つ。会期は8月15日までなので、『シネマ・インフェルノ』を体感したい方はぜひ渋谷へ!
会場で上映している映像はこちらでも視聴可能だ。
https://www.maisonmargiela.com/ja-jp/cinema-inferno.html

『シネマ・インフェルノ』
会場:パークウェースクエア2
東京都渋谷区神南1-19-10

会期:7月29日(土)〜8月15日(火)
予約サイト:https://www.maisonmargiela.com/ja-jp/cinema-inferno.html
(事前予約の方を優先的にご案内。予約のない方も状況により案内可能。)

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。
オンラインサロンcreative SHOWER でナビゲーターを始めました!
まるでシャワーを浴びるかのように、美意識や感性に刺激を与える時間を重ねようというコンセプトです。ご興味のある方はぜひこちらをのぞいてみてください。
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