さまざまな手法で現代アートを手掛けるENA(エナ)の個展が渋谷区富ヶ谷のクリエイティブスタジオで開催されている。今回のテーマは「YAWN(あくび)」。
発想のきっかけは「ウェルビーイング」や「ダイバーシティ」など、巷でよく聞くより良い社会のためのキーワードに違和感を感じたこと。「自分の身の回りの日常と(そのことばとの)距離がすごくあるなって。ことばだけが一人歩きしているように感じました」とENAは振り返る。では、自分にとって、人と人とがつながるためのキーワードって何だろう?
記憶としてよみがえったのが、感染症が拡大する以前の、コミュニティバスでのワンシーンだ。小さな子どもがあくびをしたのを発端に、そのあくびがお母さん、そして近くにいたおじいさんへとまるでリレーのバトンのように伝わっていった。
「そのとき、小さなバスがまるで一つの世界のように感じました」とENA。「もしかしたら、あくびこそが、国境も超えて宗教の違いも年齢や男女も地位や名誉も関係なく、フラットな状態で人間が幸せにつながれる日常的な動作なんじゃないかなって」
今回の作品を見渡して気づくのは、あくび、と聞いた時にまず連想する“顔”がないこと。顔の表情を全く見せずに、あくびの最中の身体の一部を描く。
「あくびってごく日常的な動作で、人があくびをしているのを見ると、なぜか近くの人に伝染してしまう。しかしその生理的なメカニズムはまだ解明されていないそう。当たり前なものと流してしまっていたことに改めて思いを巡らすことで、ポジティブな可能性に気づこうよ、ということを伝えたかった」
これらの作品は、見る者のあくびを誘発することも狙っている。柔らかな光を思わせる色彩とぬくもりのあるタッチを見ていると、たしかにじんわりと心地よい時間の流れが沁みてくる。ありふれた動作で人と人をつなぎ、幸せをつないでいく。パンデミックは終わりつつあるが、人と人の対面コミュニケーションにはまだぎこちなさが残る今、小さな動作に目を向ける大切さを感じたひと時だった。
ENAに聞く7つの質問
1. あなたにとってアートとは?
描くことは生活の一部。作る過程では考えることも重要で、どれもが生活の延長線上にある。仕事という感覚ではなく、「アートは人生です!」という理想がありますね。
2. 影響を受けたアーティストは?
父親がかなりのダリ好きだったせいか、シュールレアリスムには大きな影響を受けていると思います。ふつうではない何か、ぞくっとするような違和感に惹かれます。
3. 好きな場所は?
直島です。世界的にみても稀にみる現代アートの島ですよね。行くたびに、島独自の時間が流れているのを実感します。
4. 小さいころになりたかった職業は?
両親ともに油絵を描く家で育ち、いつもアートは日常にあったものの、小さなころの夢は実はアーティストというわけではありませんでした。図工の時間に粘土をこねるのが好きすぎて。「パン屋さんになりたい!」とか言っていましたね。
5. 好きだった遊びは?
鮎釣りが好きな父親に連れられ、毎週末、川辺で石と遊んでいました。浅瀬の石を見て、「この石は動く。これは動かない!」と石と意思疎通ができるようになるほどでした。
6. 好きな色は?
“作色家”を名乗るくらい、もともと色そのものが好きです。色と向き合い、対話し、色を作ることを続けています。好きな色と聞かれると難しいなぁ。原色も好きだし、ペールトーンも好きだし、もちろん黒も好き。その空間にあった色をみつけるという感じですかね。
7. 今後、挑戦したいことは?
今は平面の作品を作っていますが、立体もやってみたいです。そして、いつかはパブリックアートを手掛けたい。たとえば輪廻転生が本当にあるとしたら、生まれ変わった自分が前世の自分の作品に巡り合う、なんてステキですよね。
ENA / 現代美術家
美術専攻で高校を卒業後、油彩画、アクリル画、コラージュ、立体造形、写真、映像、音響、インスタレーションなど、固定概念や枠にとらわれず、様々な手法で自身を表現している。
https://ena-art.com/
ENA「YAWN」
会期:2023 年 3 月 31 日(金)~4 月 8 日(土)
会場:CONTRAST
住所:東京都渋谷区富ケ谷 1-49-4
開館時間:11:00〜20:00 ※最終日 18:00 まで
観覧料:無料
アクセス:東京メトロ千代田線代々木公園駅 1 番出口より徒歩 1 分、小田急小田原線代々木八幡駅南口より徒歩 2 分