今、最も注目される新進ブランド、TELMA。西洋と東洋の服作り、両方を学んだデザイナーの中島輝道さんをおたずねしました。後編の舞台はヨーロッパから、母国日本へ。現在までを追います。
インタビューの前編はこちら。
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転機4:イッセイミヤケに“日本”を求めて
ドリス ヴァン ノッテンのアトリエでアシスタントとして働くうちに湧いてきたもやもやとした気持ち。風穴をあけたのは、イッセイミヤケのリズムプリーツとの出会いだ。コレクションのリサーチをしている際にたまたま巡り合ったものだった。
「平面がプリーツを刻むことで立体となる。こんな立体のつくり方は西洋の発想にはない。西洋の服づくりは極端に言えば、布を切り刻み、刻んでできたパーツを繋ぎ合わせて鎧のような立体をつくること。そこへガチャンと人体をはめ込むイメージなんです。一方、日本では、布で人体を包み込み、その人の身体に合わせて調整していく。もちろん前者を否定しているわけでは決してなく、実際すごくきれいな立体ができて美しいんです。ただ、その立体の下にある骨格の作りが、西洋人と日本人は全く違う。自分のルーツである日本でもう一度学ぶべきだと思ったんです」
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トータルで8年ほど滞在したヨーロッパを離れ、帰国した後の行き先は、イッセイミヤケしか考えられなかった。
「西洋の服づくりは形から入るので、生地はあまりつくりこまないことが多いんです。でもミヤケではまずはテキスタイルから。日本全国の産地をまわり、生地から、たいていは糸から開発していくのが普通。一番やりがいを感じたのは、産地で職人さんたちと試行錯誤しながら素材をつくりこむときでしたね」
イッセイミヤケで学んだのは生地との向き合い方だ。「生地の風合いはハサミを入れると一度死ぬ、と教わりました。生地の一番美しい状態が生きるのは、ただそのまま肩にかけたとき」。豊かなドレープ感を持った一枚の布をどう生かすかが、デザイナーの腕の見せ所だった。
転機5:自らのブランド、TELMA立ち上げ
イッセイミヤケを“卒業"し、自らのブランドを発表したのは2021年9月。「コロナ下で社会全体が暗いムードでした。何か、私なりの表現で、そのムードをどうにかしたいと思ったんです」。当時はファッション業界自体も、環境負荷や下請けの労働環境問題といった悪い側面ばかりが世間的にクローズアップされていた頃だ。
「今のファッションのイメージを変えていきたいし、もっと広げていきたい。SNSの登場で人々にとってのファッションの捉え方が、より瞬間的なものに変化していった。それはもちろん否定はしないが、ファッションって実は一番、人に近い存在のもので、ときには人と人との繋がりにも貢献できる。『何年も着ていないけれど捨てられない』、そのくらい思い入れをもてる服をつくっていきたい」
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やっぱり景色を変えていかないと
「ファッションは答え合わせじゃない」。“これを着ていれば正解”といったことをもてはやす世間的な風潮に対する見解だ。
「正解か不正解かに分類するのは乱暴ですよね。もう少しゆるく服と付き合ってもいい。服=機能性という傾向も最近目立ちますが、機能ばかりに偏重するのではなく、人間的な感情を大切にできるのが洋服。ファッションで自分自身と向き合うこともできる、というのを多くの人に体験してもらいたいんです」
中島さんが考えるファッションは、人の気持ちに寄り添い、感情に響くものだ。
「ファッションで街の景色を変えていきたいと思っているんです。最近の世の中は暗いムードが漂っていますが、街に集う人々の服が景色を変え、その景色がまた人々の気持ちにも返ってくる。ゆくゆくは服というカテゴリーも超えたデザインもしてみたい」
ブレずに携えるのは「常に人の気持ちに寄り添っていたい」という信条だ。次なる転機に向けて今を邁進している。
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中島 輝道 (なかじま てるまさ)
2010年アントワープ王立芸術アカデミー卒業。卒業コレクションをきっかけに同年、ドリス ヴァン ノッテンに入社。ドリス・ヴァン・ノッテンのアシスタントとしてウィメンズデザインを担当。その後帰国、14年にイッセイミヤケ入社。21年にTELMAのファーストシーズンとして22年春夏コレクションを発表。
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呉 佳子
ファッションディレクター
資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。
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