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Heart of Fashion

映画『MISS ミス・フランスになりたい!』後日談 後編

2021.04.22

先日公開されたフランス映画『MISS ミス・フランスになりたい』。SHISEIDOファッションディレクターの呉佳子がファッションジャーナリストのマスイユウさんをお招きして、映画をめぐってアフター・トーク。ファッションを自由に楽しみ、世界を駆け巡るマスイさんが語る自身のアイデンティティや、ファッションとデジタル上をめぐるコミュニティ、そして希望について。放談の果てに見えてきたのは……??? 今回は後編をお送りします。

左から呉佳子、マスイユウさん

(前編からつづく)

子どものころの夢、これからの夢

呉佳子(以下、呉):映画では、ジェンダーなどいろいろな要素がありつつも、やっぱり「夢」というのも大きなテーマだったのではと思うんだけど、小さい頃の夢は何でした?

マスイユウ(以下、マスイ):ちょっとネガティブになるけどいい?(笑) 夢はありました。高校生の頃に描いていたその夢は、今叶ってるんです。たぶん世の中で、自分がなりたい仕事や夢見てたものになれる確率ってそんなに高くはないと思うんだけど、そんな中で、ワシは夢を実現できた。しかし問題は、それで”ワシはいま、ハッピーなのか?” というところです。夢は夢であったほうが幸せだったのかもしれないし、仕事になってしまったら現実を突きつけられて、夢物語ではなくなってしまうってこともありますよね。

:それは悩ましいよね……。映画でもアレックスが夢に近づくにつれて戸惑いのような感情もあったもんね。で、ユウ君の夢はファッションに関係する仕事だったってこと?

マスイ:ファッションジャーナリストやファッションで世界を飛びまわる仕事がしたいと思ってたんですよ。でもその事をすっかり忘れてて。去年のパンデミックで時間がある時に、何かのタイミングで、「そういえばワシ、夢が叶ったんだ」って思い出して。自分の中で夢がひとつ完結したところで、これが幸せなのかなって考えてる。

:ちょっと一息ついたんだ。たしかにコロナ自粛は振り返るタイミングだったかもしれないね。

映画より。夢の舞台に臨むアレックス。 ©2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS

マスイ:夢が叶って、やっぱり幸せな部分はたくさんありますよ。努力なんて一切したことがなくて、こんな適当に生きてきて流れのままにここまでたどり着いて……。

:寝ずに原稿書きとか、ちゃんと努力してたのを私は知ってるよ!

マスイ:それは仕事ですから(笑)。しかしずっと波に乗ってなんとなくここまで来たから、すごくラッキーなんだと思います。ワシは本当に風の時代にぴったりなのかもしれない(笑)。

:そうかもね(笑)。キャリアのはじめはロンドンのショップでバイイングを担当してたよね。その後、同時に二人の方に弟子入りを果たしました。ジャーナリストとパティシエ。

マスイ:そうそう、ケーキのパティシエ。今回はファッションの夢をお話したいところで本当申し訳ないのですが、じつは、そのケーキ屋さんの手伝いしてると本当にこれ……、

:ケーキ屋さんのほうが楽しかったとか(笑)。

マスイ:楽しかった~~(笑)。だってもう、400円、500円で人を幸せにできるって素晴らしいことだと思うんだよね。ファッション、とくにラグジュアリーに関わってると100万、200万円使っても幸せじゃない人たちがいっぱいいるんですよ。もちろん幸せなキッズもたくさんいるんだろうけど。でもそういう状況を見ている傍らで、400円、500円のケーキをみんな本当に嬉しそうに買ってくのを見ると、なんかファッションの虚しさというのをすごく感じてしまった。

ファッションの虚構、希望としてのサステナビリティ

マスイ:ファッションは虚構の世界じゃないかという話はずっとあるけど、ファッションはもちろん現実で、昔はファンタジー要素があったんですよ。それがデジタル化でロマンティックな部分が薄まり、今ではどんどん本当の虚構になってきてしまっている気がする。ソーシャルメディアはフェイク。ブランドの服を広告として着てる人達もいれば、服買って写真撮った途端にすぐ売りに出す人もいる。自分がその嘘の世界にいるっていうのが本当に悩ましい。夢のないことを言うようでごめんね……。

:いやいや、大事なお話。

マスイ:さっきワシが話した、夢が叶ったいまが幸せかどうか考えはじめたのもこの問題が大きい。ワシもインフルエンサーとしての仕事もいただくんだけど、周りでどんどんデジタル化が加速してフェイク感がどんどん増している中で、正直、そこに自分が与するのは嫌だなあって思ってる。ワシは嘘の世界にはいたくないんですよ。正直な人間だから。

:いちフォロワーとしては、ユウくんのインスタグラムは本当にカラフルな日常が垣間見られて素敵だなと思ってるけどね。楽しそうにジャンプされてるんですよ。

マスイ:そのジャンプのおかげで支障をきたし一時期歩けなくなりましたけどね(笑)。

:はははは。でもそのジャンプが見てる人を楽しくすると思うよ。

問題のジャンプ。マスイさんのインスタグラムより。@Yumasui

マスイ:ワシのソーシャルメディアにはフェイクはないんですよ。カラフルな服を着たり、アホなことをしたりすることで少しでも人が笑えたりとか、明るく楽しくなってもらえたらいいなと思ってるから。だから問題はブランドの広告。もちろん服など提供してくれることもあるけれど、ワシはジャーナリストなので基本的にお金関係では受けない。でも好きなブランドの人達はサポートしますし、虚構のファッションの世界にも希望はあると思うんですよ。今のサステナビリティやダイバーシティへ向けてのアクションは、ファッション業界のこれからの夢なのかなと思う。

:ダイバーシティとサステナビリティの機運は業界でもものすごい高まってるよね。

マスイ:とくに若い世代はすごい希望をもってる。彼らにとってそれは基本であって、「僕たちサステナビリティやってます」なんてわざわざ言わないんですよ。

:前提って感覚だよね。

マスイ:そうそう。一方、にわかに企業がSDGsと盛り上がってるけど、それも決して悪いことじゃないと思う。大企業が我々はSDGsに取り組んでいますと宣言することで一般の人達もそういう動きがあるということを理解した。だからサステナビリティの考えを導入する今の時点ではいいアクションだったと思います。が、その大企業が本当にどこまでやるのか、実際何%サステナビリティを達成するのかと問われるフェーズに入ってきてるよね。

カテゴライズとデジタルが引き起こすアン・ハッピー

:映画の話に戻ると、『Miss』の主題としてはやはりLGBTQの提起がハイライトかな。

マスイ:その点に関して、ワシはあんまり” LGBT”という言葉が好きじゃないんですよ。内訳が複雑すぎて。LGBTQの後にカテゴリーの頭文字がどんどん追加されていって、いまや何文字あるかも知らない。ワシは”人間マスイユウ”で生きてるのでどこにもカテゴライズされないし、されたくもないし、余計なお世話なんですよ。なぜあんなに差別化する必要があるのかなと思う。もちろん、「こういうアイデンティティの人たちがいます」ってみんながわかるようになるといういい部分もあるけど、でも頭文字でどこまでわかるんだろうって。自分のことって、自分でもわからないじゃないですか。

:そうだよね。こういう人もいるんだって発見もあるけど、同時に構えちゃう部分もあるかも。

映画より。©2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS

マスイ:区別することによっていい部分もあるけど、「自分たちはこれだ」っていう壁ができてしまうという負の面もある。実際、みんなが”コミュニティ”で集まって自分たちの価値をめぐって戦ってる。でもあまりにコミュニティで凝り固まりすぎちゃって、他の人達と交わらなくなってきているのも事実。

:同感。自分が接する情報やニュースがアルゴリズムで操作されていることと同じで、自分の興味のあることやその周辺はよく分かってるけど、その他の部分は自分の理解を超えていたり認識から外れちゃってると思う。

マスイ:そうなのよ。だから最近よく考える、デジタル化で人間は幸せになったのかなと。2000年代にインターネットとデジタルが始まった時、「世界が広がる!」ってみんな希望に満ちてたんだけど、2010年代になるとネット上にどんどん生まれたコミュニティの間にたくさん壁ができてしまって、”バウンダリー(境界)”ができてしまった。境界で世界は分断し、人と人とのこころも離れ離れに。ワシには最近よく使われる“コミュニティ”という言葉が断絶されたムラ社会にしか見えない。仲間同士は助け会うが、蚊帳の外は知らぬ存ぜぬ。人との距離はどんどん狭まってはいる。違う場所にいる人達とつながるのはとても簡単になってるけど、身近な人の間でむしろすごい別け隔てができてしまってる気がしていて。本当に息苦しいの。ファッションの世界も同じだと思う。

一方で、ワシが育った80~90年代はバブル崩壊からプレゆとり世代そして就職氷河期という、俗にタイミングの悪い世代とも言われているけど、マイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーの” We Are The World”(1985年)やEUの誕生(1993年)など「世界をひとつにしよう」、お互いを助け合おうとした時代だったから、実はそんなに悪い時代じゃなかったのかもと思ってる。それと矛盾するようだけど、ファッションにとっては2010年代はじつはすごいよかったんじゃないかなと思う。

:2010年代?

マスイ:そう。10年代に入ってからJ.W.アンダーソンが登場して、いわゆるダイバーシティが始まって、トランスジェンダーのモデルがたくさん起用されたことで「男が男の服を着なきゃいけない」「女性が女性の服を着なきゃいけない」っていう認識がなくなったと思う。ウィル・スミスの息子のジェイデン・スミスもルイ・ヴィトンのレディース着てるじゃない? ショーに行くときも普段でも。ヒップホップの人たちも、カニエ・ウエストは着ないか。でもあの人はどうだろう、あのハッピーな歌を歌ってた人……。

:ファレル・ウィリアムズね(笑)。

マスイ:そうそう、ファレル! 彼もレディース着てたと思うんだよね。もちろんレディースの大きいサイズだと思うけど。それですごい視野が広がった。だって黒人ってマッチョじゃなきゃいけなかったわけじゃないですか、これまでって。MVでもビキニのお姉ちゃんを横で侍らせて自分マッチョで、なんとかセントみたいなゴリゴリじゃなきゃカッコがつかなかったのが、レディースの服を着てても全然OKになったというのはやっぱりすごい変化だと思う。

:そういうバウンダリーを押し広げる役割をファッション業界は担ったよね。最近だとビリー・アイリッシュとかがダボダボ着たりとか、ああいうのもいいよね。

マスイ:そうそう、逆もあるんだよね。女性がメンズを着る機会も増えてるし。これまでだったらファッション誌でメンズがウィメンズの服を着るのはNGだったのが、今ではメンズ誌で「ウィメンズの服をこうやって着たらどうか」みたいな特集が作られているし、やっとだけど最近変わってきてる。

映画より。鏡に映るアレックスの正直な気持ち。©2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS

アフター・コロナ、街はキテレツファッションであふれる

:映画の中でアレックスがミスコン挑戦を発表してからがらりとファッションやビューティが変わったんだけど、ユウくんも自己表現が上手ですよね。先ほど少し触れましたが、今日のユウくんのスタイリング、すごく素敵なんですよ。スポーツウエアにドレッシー要素を足すとか。髪の色の入り方もすごいきれいだね。

マスイ:ブリーチしたところに色入れてもらったの。ワシ、頭が超適当で、先週までぼっさぼさだったの。でもカチっとしてるのが嫌でどこか崩したくて。スーツ着ててもちょっと頭ボサボサとかがいい。息苦しいじゃん、全部カチっとしてると。完璧とか理解できない。

:そのボサボサもユーモアと同じで抜け感、ということかな。では最後に、ファッションの希望はサステナビリティやダイバーシティへの舵取り次第ということだったけど、個人のレベルではどう思う?

マスイ:自分が楽しく着ればいいのよ、人のこと気にしなくったって。個人主義という意味でなくて、人の視線を気にしなくていい時代になった思うんだよね。なので、自分が楽しく着よう!!!

:そうだね~といいつつ、前ほどキテレツな格好をしてる子を見かけないような気がするけどね。原宿界隈とか。

マスイ:たぶん外出していないだけじゃない? とあるデザイナーの話では、売れるのはやっぱりショウピースかららしい。コロナパンデミックが終わった暁には、またドレスアップして外に出られるんじゃないかという希望を消費者ももってるみたい。それとなんだかんだいって、やっぱりみんな一つひとつ”スペシャルなもの”を求め始めてると思うんですね。だからワシの予想では、パンデミックが明けたらキテレツな人で街はあふれる。

:そうかもね(笑)。抑圧されるとその反動でめかしこみたいとか、ドレスアップしたいっていう衝動は絶対生まれるもんね。

マスイ:そうだよ。自粛でおとなしくしている間に、あれ、世の中どうなっちゃったんだろうっていう人たちが奇妙奇天烈なファッションで街に繰り出すはずよ。

:どうしたらユウくんみたいに自己解放ってできるのかな。

マスイ:自己解放? ワシ、基本的に開放的な性格だから(笑)。モットーは”適当”なんで。困ったことに仕事も適当で、お世話になっている編集さんには毎回「まじで原稿出してください」って泣かれてますよ。適当、適当、真剣に考えなくていいんだよー。真剣に考えるから悩むんだもん。

:なるほどね、適当っていうのがまた難しいけど(笑)。でもたしかにユウくんや映画のアレックスのように自分の気持ちを解放できると、自然と周りの世界が変わっていくのかもね。ユウくん今回はありがとうございました!

マスイ:こちらこそ!

マスイユウ
静岡県浜松市出身。ヨーロッパからアジア、アフリカまで、世界を駆け回りファッションウィークをリポート。新人の発掘に長けており、LVMHプライズのスカウトも務める。自称浜松餃子親善大使。@yumasui

撮影:ATSUKI ITO
ヘアメイク:中山大輔(SHISEIDO BEAUTY SQUARE SALON
撮影協力:SHISEIDO BEAUTY SQUARE

クリエイターの紹介

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。毎季、コレクション取材で世界を飛び回る……だけならカッコいいのですが、家では2児の世話に髪を振り乱す毎日。

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