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Heart of Fashion

社会に対する意志表示をする服―CFCL

2021.07.19

文/呉 佳子(資生堂ファッションディレクター)

「昔はファッションって甲冑的なものだったが、今は“薄皮”に近い」
そう語るのはCFCLの代表兼クリエイティブディレクター、高橋悠介だ。三宅デザイン事務所を退職後、彼が昨年立ち上げたブランドCFCLが今、大きな注目を集めている。

そもそもファッションには見せびらかし欲求や差異願望などを叶え、他に対して自分の存在を優位に見せたり、繊細な主体を保護する“甲冑”としての側面がある。しかし、高橋によれば、「ファッションの役割が時代とともに変わった」。社会と向き合う時にまとう甲冑としての服の役割が小さくなってきている。かといってこだわりの無いスタイルでは満足できない。冒頭の“薄皮”には、個人がありのままに持っている「強さ」が透けて見えるという意味を込めた。
さらに、かつてはファッションが果たしていた「自分はどういう人か」を発信する役割も、今やSNSに大きく浸食されている。誰と友人か、何を食べたか、どこで遊んでいるか……。社会に対する「私はこうだ」と表明するツールは服だけでなくなり、ライフスタイル全体で一貫した表現が必要となった。

自分の存在を定義するために仕事をする

ただ、「社会に対するファッションのインパクトは依然強い」、と高橋は断言する。
「僕が作りたいのは基本的に服だってことはいつも変わりないんです。同時に強く感じているのは、ファッションの美しさだけを追求していくむなしさ。もう十分に満ち足りているのに、これ以上、服は必要か。デザイナー/ブランドの役割は、今の社会に生きる人をサポートすることにこそあるのではないかと考えるようになりました」
その思いは、ブランド名にも託した。CFCLはClothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)の頭文字だ。
では、高橋とそのチームが考える現代生活とはどのようなものか。
「単純な仕事はAIに置き換わっていく言われる中で、人間しかできない人間らしい仕事をするとか、クリエイティブであることの価値が問われるようになった。その状況がコロナ禍で一層、加速したと思います。今、何のために仕事をするのか。突き詰めて考えると、人は、自分の存在を定義するために仕事をするのではないでしょうか」
そんな人たちの輝きを収めたいと始めたのが、白黒ポートレートのプロジェクトだ。

被写体に投げかけた問い—「あなたにとっての衣服とは?」「あなたにとっての現代生活とは?」「あなたが今考えることは?」—への答えも添えられる。CFCLのInstagramより。©蓮井幹生

詩人、ギタリスト、アスリート、小説家など、高橋らが考える「現代的な生活をしている人たち」がCFCLを身に着けてカメラの前でポーズをとる。使用するのは11×14(イレブン・バイ・フォーティーン)という大判フィルム。写真家の蓮井幹生が撮影をした。「11×14ってもう製造されてないんですよ。なので今、世界中から在庫をかき集めている状態。半世紀以上前に使われていたカメラで現代人を撮る、という時代のずれみたいなものが面白いと思った。何よりも“本物の写真の強さ”が出る」。11×14で撮影した作品を数年後にどこかで発表する構想を練りながら、今のところはデジタルカメラで収めた写真を月に2名ずつCFCL公式インスタグラムで紹介をしている。

CFCLのInstagramより。@蓮井幹生

小さくても “強さ” を見せたい

CFCLのクリエイションの背景には、高橋の社会問題に対する強い使命感がある。
「前職では、服をデザインすることが業務だった。でもそもそも服を作ること自体、材料、工場、一緒に働く社員や、その会社が存在する社会など、さまざまな要素の結果なんです。それらの一つ一つの要素が果たして一貫しているか。SNSなどで発信している断片的な情報が、服として形に現れた時にほころびがでないか。筋が通っていないとおかしい」
ファッションブランドとしてあるべき姿を模索する高橋を触発したのが、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの活動だ。
「当時15歳の女の子が一人で始めた活動が世界を変えた。昔だったら大きな権力に潰されたりもあったでしょうけど、今はそんな時代じゃない。個人の発信するパワーのすごさを感じました。となると、会社に『こうした方が良い』と言うよりも、会社を出て個人で動き始めた方が早い。小さくても“強さ”を見せたいと思ったんです」
“強さ”というのは高橋へのインタビューで最もよく聞かれたワードの一つだ。その強さはビジネス、ひいては生き方にまつわる全ての基準、判断、活動が、「社会的使命を果たす」という信念に貫かれることで生まれる。
「要は、一貫していることが重要だと思います。例えば、ビーガンレザーの使用と肉を食べることには一貫性がありません。ほかにも動物愛護の観点によるフェイクファーの使用促進は一方で海中にその繊維が堆積してしまうという海洋プラスチック問題を引き起こしており、今世の中では多くの矛盾が存在しています。みんな答えを模索しながら動いている現状だが、変えられるところはすぐにアクションを起こしたい」
まずは現状を数値化して把握するため、日本のファッション・アパレル業界では初めて*の試みとなるライフサイクルアセスメント**を実施し、ドレス一着を製作する際の環境への負荷を数値化した。2030年代には全品番を網羅する予定だ。
*CFCL自社調べ。
**ライフサイクルアセスメント(LCA):その製品の資源採取、原料生産、製品生産、流通・消費、廃棄・リサイクルまで製品ライフサイクル全体における環境負荷を定量的に評価する。

トレンドとは別の軸で

「いつからか、ファッションデザイナーの存在意義が変わった。デザインによる自己表現が強く求められるようになった。でもファッションは本来、社会に対して向き合い生まれていくもの。シャネルのスーツや、サンローランのパンタロン、イッセイ ミヤケのプリーツなど、文化や人々の生活に大きな影響を与えた服は、それぞれのデザイナーが社会と対峙していた中で生み出された」
前職でファッションの第一線に身を置いた経験から、街で見かけるトレンドの出どころが透けて見える。最初に発表したデザイナーは真摯に社会と向き合い、自分の考えや思いをその商品に託していたとしても、それらはどこかへ行ってしまって、ただ形だけがコピーされトレンドとして継承されていく。とにかく新しければ良いものとされる。
「正直、服の形に関して言えば、これ以上、目新しいモノを提案することは難しい。でも、ファッションって、それをまとうことで社会に対する意志表示ができるもの。それは変わりません。今社会で起きているいろいろな問題に敏感になっている人を大事にしたいし、そういう人たちが『何を着たらいい?』と考えた時に、『CFCLを着てください』と自信を持って言えることも大事」

ニットに商機あり

CFCLの軸となるのはニットだ。
「大学院にいたころ既に、ニットの可能性を感じていたんです。(CFCLの商品に欠かせない)3Dコンピューター・ニッティングの技術は当時、かなり珍しかったので。それにニット科では、クラフトの趣があるほっこりしたテイストが主流で、すっきりとした構築的なデザインのニットを志向する人は少なかったんです。そこで、将来自分のブランドやるならニットにしようと」
ニットのドレスは市場にあまりないという状況をとらえ、昨年発表したファーストコレクションでは、ニットドレスを大きく打ち出した。

Vol.2コレクションより。vol.1で打ち出したニットドレスをさらに深く探究。

“ほっこり” とどれだけ距離を置くか

「ちょうどコロナ禍中のデビューとなって、ステイホームや在宅勤務の生活スタイルにマッチしたと言われますが、コロナ前からカジュアル化は進んでいた。あらゆる体形にフィットできる素材というニットの特性も時代の流れに即していたと思います」
ずっと着られる服を、という考えから、CFCLの商品はシーズン名では呼ばない。7月14日(水)よりvol.2と銘打たれたCFCLのセカンドコレクションが店に並んでいる。
「時期的には秋冬シーズンに向けたもの。ニットで秋冬というと、どうしてもほっこりしてしまうので、“ほっこり”とどれだけ距離を置くか、を考えました。イメージとして最初に浮かんだのはモード感のあるシャープなニット」
建築や構造物にアイデアを求め、目を留めたのが、ギリシアのイオニア式の柱だ。まっすぐと伸びた柱の上に左右対称の渦巻き状の飾りがつく。「ファーストシーズンがつるっとしていたので、次はテクスチャー感があるものがいい」とし、表面のデザインに特徴を出したアイテムも発表。

建築物のファサード(正面から見た外観)をイメージしたコート。

“ファッション”ブランドについて話を聞きに行ったはずの今回のインタビューだが、海洋プラスチック問題から、ワイン作りによる水源独占問題、SDGsと資本論に至るまで、高橋が事例として取り出す話題は多岐に及んだ。彼の問題意識の高さと、本質を見極める洞察力、そして責任を全うしようとする使命感は、社会派ライターだった母親譲りだ。
「2020年はビジネスとエシカルが直結した元年。昔のアクティビストはノーしか言わず建設的な提案がないと煙たがられたけど、今は違います。社会は自分の手で変えられるのではないか、という思いが広まっているし、まずは声を出していくことが必要
今、節目を迎える時代にあって、ファッションブランドの在り方も変化している。私たちの社会、未来はこうあるべき、といった確固とした思いに裏付けられたCFCLの今後の展開から目が離せない。

All Photography ©CFCL

髙橋悠介
CFCL 代表兼クリエイティブディレクター
1985年東京生まれ。文化ファッション大学院大学修了ののち2010年に株式会社三宅デザイン事務所へ入社。2013年、イッセイ ミヤケ メンのデザイナーに就任。2020年に自身のブランドCFCLを設立する。Photography by Yosuke Suzuki

クリエイターの紹介

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。毎季、コレクション取材で世界を飛び回る……だけならカッコいいのですが、家では2児の世話に髪を振り乱す毎日。

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