今まで少しも良いと思わなかったものが、ふとした時点を境にとてもカッコいいと思えてくる。たとえばただのトモダチ、と全く眼中になかった人への恋心に突如気づいてしまうような……。
そんなことがよくある。 ちなみに恋ではなくてファッションの話。私には似合わない、と固く宣言したモノでも、手に取ってみて着てみていつの間にか愛用していることに気づく。
本当に度々あることなので、自分の心変わりを軽薄だとか、あきれるとか思う気持ちも最近ではなくなって、いやむしろ、確固とあったはずの決意がいとも簡単に崩れ去ってしまうことに対して、「だからファッションって面白い」と開き直るようになってきた。
今の時代の空気を吸い、今の時代の気分を感じることで、自分自身の意識が変わってゆく。些細な出来事ながらも時代の大きなうねりを体感しているような気さえしてくる。 逆に言うと、刻々と変わりゆく時代の気分がいち早く投影されるもの、それがファッションなのだ。
そして目にするたびに、時代の気分の捉え方に思いを馳せずにはいられなくなるのが、コム デ ギャルソンのショーだ。
今年の秋冬のテーマは“18世紀のパンク”。18世紀は、国の体制から産業、人々の生活まで、あらゆる場面で革命が続き、時代が大きく動くとき特有のパワーみなぎる時代だった。その中でのパンクとはつまり、体制におもねるのを潔しとしない態度のこと。
西洋絵画での花園のように鮮やかな花柄の甲冑スタイル、つぼみや花弁を思わせる大きなパーツが連なったドレス、ピンクのラバー素材が大胆にフリルをなすジャケット……。カラーパレットは暖色系が中心で、花と甲冑、ハリ感のある素材とキルティングなど、剛柔あわせ持つスタイルを見ると、今を生きる女性の強さはどうあるべきかを考えさせられる。
ショールックは形も大きさも確かに日常使いからはかけ離れている。しかし従来的な服の“かくあるべき”に囚われない発想には、既存のシステムに何ら疑問を持たずに従うことへの恐さ、思考停止状態の解除を訴えかけるシグナルが込められている。
ところで、これらショーピースは少量の受注生産と、海外での雑誌撮影や店頭ディスプレイに使われるのみだという。形も大きいし、どこから首や手を出すのか簡単には分からない特殊な服が多いので、撮影には必ず、服をモデルに着せるためのパタンナーが同行するのだそう。
さてコレクションルックを鑑賞した後には、ぜひ店頭に足を運んでみてください。実は、コレクションのエッセンスをどう店頭商品=リアルに着られる服に転換したか、というのもコム デ ギャルソンのさらなる見所の一つ。最初は、どうせ着られないなんて思っていたモノも手に取った瞬間、恋に落ちるような出会いとなるかもしれません。