「Decoration never dies, anyway.」という本展の英文タイトルが“攻めて”いる。空間の隅々まで執拗に埋め尽くす装飾の「念」、人の肉体は朽ちても受け継がれる装飾の「生命」、世界滅亡後も瓦礫に美しい骸を遺す装飾の「不滅」、などとディストピア幻想が浮かんでくる(←不謹慎)。
だが装飾の強さとはそこにある。ダンプカーさえ荘厳に見せるゴシック様式の伝統(1)。あらゆる記号を呑みこむ服飾の過剰な包容力(2)。実在しえない世界観をペルシャ絨毯の柄に見立てる図像学的倒錯(3)。小人の仕業か、クロゼットや書斎にこっそり培養された小宇宙(4)。そこにはあっさりした現実の道理や意味を押しのけてしまうしたたかな存在理由がある。タイのアラヤー・ラートチャムルーンスックの名作『タイ・メドレー』が展示の最後を飾る(5)。霊安室に眠る身元不明の遺体たちに彼女自身が花柄の布をかけ、恋物語を歌いかけるこの映像は、ありふれた装飾品が夢と現実の境界を超え、魂をどこかへ運んでいくかのような祈りの時間を切々と綴る。
本展の舞台となる東京都庭園美術館は旧朝香宮邸の歴史的建造物だ。当家を創立した鳩彦王はフランス留学中に交通事故に遭い、看病のため渡欧した允子内親王と共に長期滞在する。アール・デコの様式美に魅せられた夫妻は自邸の設計にフランス人芸術家を起用し、日仏の意匠家や職人を集結して、装飾芸術の粋を極めた空間を建造した。私邸の趣を伝える間取りや調度はこの館に暮らした主や賓客、使用人らの気配をうかがわせる。一夜を夫妻や姫君の寝室で過ごしたなら、端正な装飾を細部まで愛でた人々の情熱が幻想芸術の形をとって夢枕に現れそうだ。そんな空想に誘う作品を揃えた、季節に相応しい華やぎと厳粛さを併せもつ展覧会である。
『装飾は流転する 「今」と向きあう7つの方法』
2017年11月18日~2018年02月25日
会場:東京都庭園美術館
http://www.teien-art-museum.ne.jp/