『花椿』2023年号のテーマは「OUR ENERGY」。エナジーとは何か? ゴリラの研究家であり、総合地球環境学研究所所長の山極壽一さんにお話を聞きました。
エナジーと身体の関係性について考察します。
踊るんだ。踊り続けるんだ。 何故踊るかなんて 考えちゃいけない。 (『ダンス・ダンス・ダンス』村上春樹著より)
現代に生きる人間はうまく踊り、遊ぶことができていない。
「踊る」とはどういうことか。踊りとはリズムであり、他の誰かと身体の動きを合わせる、もしくは他人が自分の身体に動きを合わせる行為―それは「共感」に通ずる。
踊りの原点には「遊び」がある。遊びとは、まさに相手と身体を合わせる行為だ。追いかけっこをしたり、取っ組み合いをしたり。相手と役割を交代しながら、その繰り返しを楽しむ。役割を交代するためには、身体能力の違いを認識し、自分のことをどう思っているのか、どう遊びに参加しているのかを瞬時に探り、身体を同期させなければならない。
サルも他のサルと同じ振る舞いをすることがあるが、それは踊りや遊びとは違う。他者と動きを合わせ、違いを理解しながら遊ぶことができるのは、サルよりも人間に近いチンパンジーやゴリラなどの類人猿である。
さらに言うと、そうした「遊び」や「踊り」を、協働作業や食事といった社会的な行為に転化できたのは人間だけであり、それは文化の源泉である。ホイジンガの名著『ホモ・ルーデンス』で論じられていることだ。経済的な目的や効率性、生産性も無視した協働行為である「遊び」の中に、実は人間が求め続け、発展させてきたものがすべて詰まっていると彼はこの本の中で述べる。
現代の私たちはSNSやインターネットでいつでも世界中の人と繫がることができる。しかし、これだけ膨大な量の情報があるのにわかり合えないと感じたり、実際に会ったときとネット上でのギャップに苦しんだりと、頭だけで考えようとしてはいないだろうか。ゴリラはことばを発さないが、彼らは背中や構え・表情で巧みに意思表示をする。情報と身体、大切なのはどちらだろうか。僕はことば以前の身体的、音楽的なコミュニケーションを重視したい。
人間は、家族や仕事、趣味といった複数の集団を渡り歩いて生きる社会的な動物であり、集団によって異なるリズムやトーン、ピッチに身体を同調させながら生きている。相手に身体を合わせる行為は何もダンスだけではない。食事や会話、祭りや映画館、劇場や行楽といった他者と同じ場所に居合わせるとき、人は皆、他者に身体を同調させる=踊っているのだ。
頭で考えるのを止め、もっと踊ろうじゃないか。
Illustration / Mayumi Yamase
京都大学理学部卒業後、同大学院理学研究科博士後期課程退学、理学博士。2020年9月まで京都大学総長を務め、2021年4月より総合地球環境学研究所所長を務める。鹿児島県屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地でゴリラの行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。著書に『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』(家の光協会)、『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(朝日新書)、『猿声人語』(青土社)など多数。
https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/staff/yamagiwa/
*本記事は、2023年号に掲載しています。
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