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Column

2023.06.23

EUGENE STUDIOが提示し続ける、アートの可能性

都心から特急電車で約1時間。時間を追うごとに車窓からの風景が緑にかわってゆく。
古くから有機農業を実践してきた歴史をもつ豊かな緑や里山に囲まれた地域、木工家具工場のはす向かいに、ユージーン・スタジオ/寒川裕人のアトリエはある。

EUGENE STUDIO Atelier iii

ユージーン・スタジオといえば、東京都現代美術館での個展「ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow」が多くの来場者で賑わい、大きな話題を呼んだほか、同年に行われコンセプト設計を担った「PLAY EARTH PARK(東京、富山)」など、日本の現代美術の中心的な存在でありつつ、社会と関わりを持った取り組みが記憶に新しい。

「ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow」(2021‐2022)

コロナが猛威を振るう2020年頃に、移動の自由が制限されたことや、東京都現代美術館での個展に向けて大型作品を制作することもあり、この地に新たにアトリエを設けた。

「EUGENE STUDIO 3rd」という看板が目に入り、扉を開けてみると、外からは想像もつかない、静謐で壮大な空間が広がっていた。まず目に飛び込んできたのが、個展でも展示されていた「Everything reflects the shining light toward me」シリーズ。

Yellow flower field drawing, 2021
Oil, gouache, grease pencil on brass, 305 × 600 cm

「美術館と同じスケールで作品を作り、その雰囲気を美術館へ移動します。多くの部分がリユースした素材で作られ、そしてDIYで作られています」とマネジメント/スタジオディレクターの山中さん。アトリエ内には、「Rainbow Painting」シリーズや個展にて鏡に囲まれた人工の海を作り上げた大規模インスタレーション≪海庭/Critical≫を再現した模型のほか、制作途中の作品も、美術館に展示されるように美しく展示されているため、東京都現代美術館の展示を再訪しているかのような錯覚も生まれた。
アトリエ内に設けられた個室スペースには、「Light and shadow inside me」シリーズの新作となる、印画紙を使った作品が飾られていたり、温度や湿度が徹底的に管理された作品の保管庫までが備えられている。

Light and shadow inside me, 2022
Gelatin Silver Print (Photogram)

まるでプライベート・ミュージアムのような空間であり、昨年には原美術館をはじめ、美術館の会員向けのスタジオヴィジットが行われたほか、アジアやアメリカなど、海外からも多くの来訪が続く。時には一日数十人規模で訪れることもある。
今後この空間はどのような“場”になっていくのだろうか?

「はじめは寒川が作品を作るための空間でしたが、コロナが落ち着き始め、特に海外の美術館やコレクターの方の中で評判が広がり、訪問の要望がかなり増えてきました。新作や制作過程を見ていただける唯一の場所でもあるし、美術館やギャラリーなどの展覧会とはまた違う体験が広がっているからだと思います。そして、作品に対して、通常よりも長い時間接することになるので、豊かな時間と対話が繰り広げられていて、とても興味深いです」と山中さんは話す。また、今後の展開も教えてくれた。「限定的にはなりますが、寒川が不在の日に、アトリエを一般にもオープンにする日を作り、スタジオを少しずつオープンな形にしていき、作品や背景にあるストーリーなどについてゆっくりと、そして自然に体感できる“場"を設けたいと考えています。こういった場は、美術の体験の概念を変えるものですし、なによりも、その場で作られた作品が、その場にあるという、自然な状態であると思っています。一つの例に過ぎませんが、これは寒川やユージーン・スタジオと社会のつながりの姿勢を示すものでもあります。また、美術を志す方々や、さらに若い、アーティストを志望する方々にとっても、このような持続可能なあり方は、ある種の希望になりえると考えています」

EUGENE STUDIO Atelier iii

作品がどんな場所でうまれるのか、どんな過程を経ているのか、ある意味これまでクローズドにされてきたアートの現場を、あえてオープンに、そしてシェアするスタイルは、新しい試みと言えるのではないだろうか。

「研究者や起業家、アスリートなど、寒川や私たちのさまざまな友人がここにきて対話をしていると、じつは同じようなことを考えていることに気がつくのです。モノを生み出すこと、それを発展させること、持続させることなど共通項が多いのではないかと思っています」と山中さんが語る。

“多様性”や“共生”を作品の根幹に置き制作を続けるユージーン・スタジオ/寒川裕人のアトリエは、混迷する時代だからこそあらためて感じるアートの必要性と、これからのアートの可能性を強く感じられる“場”である。

今般、ユージーン・スタジオ/寒川裕人の作品のコレクション展が東京・天王洲のMAKI Galleryにて開催されている。展覧会と連動する形で、特別な会場としてユージーン・スタジオのアトリエが予約制で一般公開されている。

information
≪アトリエ詳細≫
*住所は非公開となり、一般枠にお申し込みをいただいた方に予約完了後に住所が送付されます。東京都心より軽井沢方面へ車で1時間強。 そのほか詳細は、予約サイトをご確認下さい。

EUGENE STUDIO / ユージーン・スタジオ Atelier iii (スタジオビジット) 一般予約
https://artsticker.app/events/3864

≪個展情報≫
「ユージーン・スタジオ/寒川裕人 想像の力 Part1/3」
2023年6月2日(金) – 8月5日(土)
MAKI Gallery / 天王洲 I
営業時間:11:30 –18:00 / 定休日:日曜・月曜 ※7月4日(火)は休廊。

≪住所≫
MAKI Gallery / 天王洲 I & MAKI Collection
〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10
https://www.makigallery.com/ja/about/#tennoz