あなたと化粧品の物語、
第7回は名々子さんの「物語」です。
アルティミューンのつるりとした赤いボトルに惹かれ、毎日のスキンケアに初めて美容液を取り入れたのは、社会人一年目の秋だった。新しく発売された資生堂のそのアイテムは、鮮烈にデビューしたスターのように、何だか目を引く印象があった。学生の頃には、入浴後に化粧水さえ塗布していれば簡単にケアが完了した。それでも乾燥知らずで、肌について悩むことが少しもなかった。都心の実家から地方の会社に就職し、社会人一年目として奮闘の毎日を過ごしていた。残業も多く、ホームシック気味。鏡を見る余裕すらなかったのだが、会社の先輩の結婚披露宴に招待され、慌てて大学の卒業式の時に着たワンピースを実家から郵送してもらった。ファッションに合わせたメイクをしようと鏡を見ると、そこには見知らぬ私がいた。ベースメイクを丁寧に施しても、肌がごわつき、焦る気持ちと共にファンデーションを塗り重ねると余計に理想の姿から離れていった。2014年のことだが、今でも暗澹とした気持ちをはっきり記憶している。期待して入社した頃は野心に燃えていたが、半年で仕事への熱意も低下していて、何もかもが思い通りにならなかった。偶然ネットで見かけたアルティミューンの広告に心奪われ、百貨店のカウンターで思い切って購入した。社会人一年目の給料にとっては大きな出費だった。しかし、肌に塗布した瞬間、美容液のテクスチャーがまるで肌そのものになるかのような陶酔に包まれたのだった。肌すみずみに美しさの源が巡り、細胞一つひとつが、心が、私が喜んでいた。それ以来、ケアをすることに前向きとなり、次第に自分の肌が愛おしく、日々の変化に目を向けるようになった。潤いも、ハリも。あれから長いような短いような年月が過ぎ、先日、三十二歳を迎えた。時の流れに抗うことはできないが、肌は応えてくれる。ドレッサーには、銀座の旗艦店で購入した限定ボトルに、初代アルティミューンの空のボトルが並んでいる。
写真/伊藤明日香