先日からスタートしたあなたと化粧品の物語、
第2回は神山泰子さんの「物語」です。
資生堂の香りは母の香りだ。母からはいつも化粧水の香りがしていた。
眉だけをデッサン用の木炭で描くような、化粧っ気のない母だがスキンケアは大事にしていた。小さい頃デパートのカウンターによく行った記憶がある。なので家の化粧台には花椿クラブの鏡や小物入れが置かれ、引き出しを開けるとベビーパウダーのにおいがいつもした。
私が中学2年生になったとき、そろそろ始めなさいと資生堂の化粧水をぽん、と手渡された。
大人のすることをもう私がするのかと、とても気恥ずかしかった。
そのときの化粧水はエリクシールだったのを何故かはっきりと覚えている。
化粧水を使い始めて、そのとき母の香りをお裾分けしてもらったような、そしてそれは今も続く大切な、資生堂の、母の香りなのだ。
写真/伊藤明日香