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Column

京都の街が写真で彩られる「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」が開催中。

2022.04.28

文/小川知子

現在開催中の第10回目を迎える「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」(以下KYOTOGRAPHIE)の一環で開催されているのが、将来的に活躍が期待される10人の日本人女性写真家の作品を紹介する写真展「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」(*要予約制)だ。

HOSOO GALLERYを会場に、芸術や文化の分野で活躍する女性の才能に光を当てることを目的とするケリングの「ウーマン・イン・モーション」が支援する本展には、地蔵ゆかり、林典子、細倉真弓、稲岡亜里子、岩根愛、岡部桃、清水はるみ、鈴木麻弓、殿村任香、𠮷田多麻希が参加している。今回、共同キュレーションを務める、KYOTOGRAPHIE共同ディレクターのルシール・レイボーズ氏、仲西祐介氏、元マグナム・フォト カルチュラルディレクター、元ニューヨーク国際写真センターのキュレーターを経て、インディペンデント・キュレーター/写真史家として活動するポリーヌ・ベルマール氏に話を聞いた。

細倉真弓「NEW SKIN」©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022
林典子「sawasawato」©Noriko

作家を選定する前に、数年間、活動を追いかけていた日本の女性写真家の“ドリームリスト”を書き出したというディレクターのレイボーズ氏。そこに、国外からの異なる視点を取り入れるべく、第1回目の開催以前から交流があったベルマール氏に共同キュレーションをオファーすることになったとのはごく自然な流れだったという。

世界から見ると、まだ光が当たっているとは言えない日本の女性写真作家による写真史。写真史家として、現在、日本の女性写真家史についての書籍のプロジェクトに取り組んでいるベルマール氏はこう話す。

「日本の女性写真家の作品に目を向けることで、日本の歴史や社会についてどれだけの知識を私たちが見落としていたのかに気づくことができました。また、彼女たちが何世代にもわたり、多様で才能にあふれた存在であることも浮き彫りになりました。圧倒的な美しさがあり、大切にすべき写真史の一部であり、広く共有されるべきものだと考えています」

こうして集結した三人のキュレーターが最も重要視したのは、作品に込められたメッセージだった。

「それぞれの社会課題に向き合い、写真を通して自分の言葉でメッセージを発している日本人女性写真家を選びました。その上で、“女性”という言葉で括られ、軽視されることに辟易している女性アーティストたちも多く、彼女たちを社会的偏見から守る。その点に最大の注意を払う必要がありました。彼女たちの多様性を見せられるよう、できる限りテーマや作風が違う、独創性が際立ったアーティストをセレクトするように努めました」と仲西氏は振り返る。

ベルマール氏曰く、「強力でありつつも、不規則なセレクション」となった「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」は、グループ展ではなく、あくまで一人ひとりの作品が尊重され、10の個展が一堂に会する、という構成になっている。

𠮷田多麻希「Negative Ecology」© Tamaki Yoshida
稲岡亜里子「Eagle and Raven」© Ariko Inaoka

「写真家一人ひとりの個展として、それぞれの作品群を独立したものとして見せたかった。グループ展は難しく、引き算になってしまいがちなのですが、今回は引き算でなく掛け算になることを狙ったんです」

HOSOO GALLERYの2階は黒、5階のフロアは白で統一されているが、展示空間のセノグラフィーはそれぞれの作品に合わせて全く異なるものだ。レイボーズ氏と仲西氏は、各参加アーティストと丁寧な話し合いを重ね、可能な限りでそれぞれが納得いく最良のシナリオとデザインを模索していく。

「それぞれの作家の作品に寄り添うような、個性的なセノグラフィーをデザインすることを考えました。そうすることで、唯一無二のメッセージを強調できますし、それぞれの才能を称えることができる。そうした結果、10人の多様なアーティストの個展がそれぞれの音を奏でることで、より壮大なパワーを発するシンフォニーが生まれたと思います」

アイデンティティ、ジェンダー、セクシュアリティ、妊娠、出産、不妊、変異種、人間関係、尊厳、記憶、喪失、伝統文化、アミニズム、タオイズム、移民、震災、環境問題……と。多岐にわたるテーマは、観る者に何か引っ掛かるものを与えてくれる。

会場はコンパクトながら、全く異なる10のストーリーに引き込まれ、それぞれの力強く増殖するエネルギーを体感するような刺激的な体験が待っている本展。来る4/30日(土)には、レイボーズ氏と写真評論家で京都芸術大学教授でもある竹内万里子氏のトークイベント(*入場無料&予約制)も開催される。オフィシャルサイトから事前予約が可能。時間に余裕を持って、じっくりと鑑賞することをおすすめしたい。

KYOTOGRAPHIEは5月8日(日)まで開催中。ギイ・ブルダン、アーヴィング・ペンをはじめとする国内外の作家のプリントやアーカイブと出合える写真の祭典を、京都巡りと共に堪能しよう。

「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」
Supported by Kering's Women In Motion 
会期:開催中~5月8日(日)
会場:HOSOO GALLERY(京都府京都市中京区柿本町412 HOSOO FLAGSHIP STORE 2F & 5F)
時間:10:30~17:30
入場料:一般 ¥1,500、学生 ¥1200
※パスポートチケットは「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」公式サイトにて
https://www.kyotographie.jp/reservation/(*要事前予約)
https://www.kyotographie.jp/events/2022/4798/

作家プロフィール

地蔵ゆかり(ちくら・ゆかり)
東京都出⾝。⾳楽⼤学を卒業後、作曲家、編曲家、プログラマーとして活動。 STEIDL BOOK AWARDを受賞し、2020年に『ZAIDO』がSTEIDL社より出版され、Photo-eye、VOGUE、LensCulture、PhotobookStore、1000 Words、All About Photo.com、Vanity Fairなどの「2020年のベスト写真集」等に選ばれる。主な受賞歴に 「LensCulture Emerging Talent Awards 2016」「IPA International Photography Awards 2020: Book/Other (1位)」「ルーシーPHOTOBOOK PRIZE(ファイナリスト)」「ソニー ワールドフォトグラフィーアワード」「Photolucida Critical Mass TOP50 2016 & 2015」「ジュリア・ マーガレット・キャメロンアワード(1位)」「ナショナルジオグラフィック写真賞」等がある。「FOTOFEST Discoveries of the Meeting Place」「IPA Best of Show photographer (Lucie Foundation)」に選出される。国内外の美術館やギャラリー等にて展⽰を多数開催し、 ヒューストン美術館、グリフィン美術館、フランス国⽴図書館に作品が収蔵されている。RPS Photobook マスタークラス、レビュー・サンタ・フェ、エディー・アダムス・ワークショップ、六甲国際写真祭 2015のアーティスト・イン・レジデンスに参加。 Leica Oskar Barnack Award 2021 にノミネート。これまでNY Times、Guardian、Financial Times、Vanity Fair、NOWNESS、Vice Magazine 等に作品が掲載されている。
ZAIDOは、様々な困難を乗り越え伝統文化を継承する人々の姿を追った作品。
絶望の中から生まれる希望をテーマに撮影を続けている。

林典子(はやし・のりこ)
神奈川県生まれ。国際政治学、紛争・平和構築学を専攻していた大学時代に西アフリカのガンビア共和国を訪れ、地元新聞社で写真を撮り始める。
イギリスのフォトエージェンシーPanos Picture所属。写真集に『キルギスの誘拐結婚』(日経ナショナル ジオグラフィック社 2014)、『ヤズディの祈り』(赤々舎 2016)。2019年『フォト・ドキュメンタリー 朝鮮に渡った「日本人妻」─60年の記憶』(岩波新書)を出版。2020年、韓国の出版社정은문고より韓国語翻訳版刊行。「ビザ・プール・リマージュ」(フランス)金賞、NPPA全米報道写真家協会賞1位など受賞。英文芸誌GRANTA、New York Times、ナショナルジオグラフィック、Stern(ドイツ)、The Guardian(イギリス)などに写真や記事を発表している。2013年より北朝鮮に暮らす日本人妻をテーマにしたプロジェクトに取り組んでいる。

細倉真弓(ほそくら・まゆみ)
東京/京都在住。触覚的な視覚を軸に、身体や性、人と人工物、有機物と無機物など、移り変わっていく境界線を写真と映像で扱う。立命館大学文学部、及び日本大学芸術学部写真学科卒業。主な写真集に『NEW SKIN』(MACK 2020)『Jubilee』(artbeat publishers 2017)、『transparency is the new mystery』(MACK 2016)など。主な個展に「Sen to Me」(Takuro Someya Contemporary Art 2021 東京)、「NEW SKIN |あたらしい肌」(mumei 2019 東京)、「Jubilee」(nomad nomad 2017 香港)、など。主なグループ展に「Reflected-works from the Foam collection」(Foam Photography Museum 2014 オランダ)などがある。

稲岡亜里子(いなおか・ありこ)
京都府生まれ。写真家、本家尾張屋十六代当主。17歳で渡米、高校で写真と出合い、ニューヨークのパーソンズ美術大学の写真科へ進学。卒業後、ニューヨークをベースに写真家として活動を始める。2001年のアメリカ同時多発テロ事件を体験、翌年に訪れたアイスランドの水の風景に魅せられ、作品制作のため通い始める。水をたたえたアイスランドの大地を5年に渡り撮りため、2008年、初の写真集『SOL』(赤々舎 2008)を発表。この翌年から、アイスランドで出会った双子の姉妹を8年に渡り撮りため、2020年、2冊目となる写真集『Eagle and Raven』(赤々舎 2020)を発表。この間、2014年に創業550年を超える家業の十六代当主となり、本家尾張屋当主と写真家、二つの顔を持ちながら活動を続けている。近年では、ベルギーアントワープのIBASHOギャラリー、London Photo やスペインのRevela’T国際写真祭などヨーロッパを中心に作品を発表。2022年11月にはアイスランド レイキャビックGerðuberg City Library and Cultural Centerでの2ヵ月に及ぶ大きな個展を予定している。

岩根愛(いわね・あい)
東京都出身。1991年単身渡米、ペトロリアハイスクールに留学し、オフグリッド、自給自足の暮らしの中で学ぶ。帰国後、1996年より写真家として活動を始める。ハワイ移民を通じた福島とハワイの関わりをテーマに、2018 年、『KIPUKA』(青幻舎)を上梓、第44回木村伊兵衛写真賞、第44回伊奈信男賞受賞。ドキュメンタリー映画「盆唄」(中江裕司監督作品、2018年テレコムスタッフ)を企画、アソシエイト・プロデューサーを務めるなど、離れた土地の見えないつがなりを発見するフィールドワーク的活動を続ける。2021年、第37回写真の町東川賞新作家賞受賞。最新作品集に『A NEW RIVER』(bookshop M 2020)、著作に『キプカへの旅』(太田出版 2018)『ハワイ島のボンダンス』(福音館書店 2016)。

Photo by 細倉真弓

岡部桃(おかべ・もも)
日本大学芸術学部卒業。主な受賞歴に「写真新世紀優秀賞受賞(荒木経惟選)」(東京 1999)、FOAM's Paul Huf award(オランダ 2015)、KASSEL PHOTOBOOK AWARD入選(ドイツ 2014)などがある。主な展覧会に「Dildo&Bible」(Foam Museum オランダ 2015、成山画廊 東京)など。主なグループ展に「the NUDE exhibition」(Fotografiska ストックホルム 2021、ニューヨーク 2022)、「Know My name」(National Gallery of Australia オーストラリア 2020)、「Japanese nude photography」(Museum Sieboldhuisオランダ 2019)など。
刊行した写真集に『イルマタル』(まんだらけ 2020)、『バイブル』(Session Press 2014)、『Dildo』(Session Press 2013)がある。メトロポリタン美術館、ニューヨーク公立図書館、ピア24に作品集が所蔵。

清水はるみ(しみず・はるみ)
1989年生まれ、東京都在住。スタジオアシスタントと書店での写真集担当を経てフリーランスとなる。風景やスティルライフを中心に撮影しており、自然の中に立つ十字架のシリーズや突然変異の動植物を記録するシリーズに継続して取り組んでいる。主な個展に「The Plants in the Voynich Manuscript」(IMA gallery 2019年)、「OPEN FRUIT IS GOD」(gallery blanka 2015)、「icedland」(Place M 2014)。主なグループ展に「浅間国際フォトフェスティバル」(長野 2019)、「LUMIX MEETS BEYOND 2020 by Japanese Photographers #4」(アムステルダム、パリ、東京 2016)などがある。

鈴木麻弓(すずき・あゆみ)
1977年宮城県女川町生まれ。2001年日本大学芸術学部写真学科卒業。ヴィジュアルストーリーテラーとして、個人的な物語を通し作品を生み出している。1930年に祖父によって創業された写真館を営む家庭で18歳まで育ち、日本大学芸術学部写真学科で写真を学んだ。卒業後フリーランスとして、ポートレートを中心に活動。2011年3月11日、東日本大震災が発生し、故郷の宮城県女川町が津波で破壊され、両親が行方不明となった。以降、故郷へ足しげく通い、地域の人々の前に進む姿を記録し続けている。2020年より、自身の不妊治療の経験を描いた新作シリーズ〈豊穣(HOJO)〉の制作に取り組んでいる。2017年に自費出版した『The Restoration Will』で、Photobooxグランプリ受賞(イタリア)、 2018年PHOTO ESPANA国際部門・年間ベスト写真集賞(スペイン)など、欧州の写真アワードで大きく評価された。主な展示に「あしたのひかり 日本の新進作家 vol.17」(東京都写真美術館 2020)などがある。

殿村任香(とのむら・ひでか)
1979年生まれ。大阪ビジュアルアーツ放送・映像学科卒業。2008年、自身の家族の日常を赤裸々に撮った「母恋 ハハ・ラブ」を赤々舎より出版し鮮烈にデビュー。2013年には、ホステスとして夜の人々と生きながら撮った「ゼィコードゥミーユカリ」をZen Foto Galleryより出版し発表。近年の作品集に「orange elephant」(Zen Foto Gallery 2015)、「cheki」(Morel Books 2018)、「焦がれ死に die of love」(Zen Foto Gallery 2018)などがある。2019年にがんと闘い向き合う女性のポートレートプロジェクト「SHINING WOMAN PROJECT」を立ち上げ、2020年に「SHINING WOMAN #cancerbeauty」をZen Foto Galleryより出版し発表した。海外での活躍も目覚ましく、2018年にはロンドンのDaiwa Foundation Japan House Galleryにて開催されたグループ展などに参加。2022年3月にパリのヨーロッパ写真美術館で開催するグループ展「Love Songs」にも出展。

𠮷田多麻希(よしだ・たまき)
幼少期の影響で生き物好きに育ったこともあり、自然な流れで、日々移り行く世の中や、流行りが去ったと共に、忘れられる自然や生き物の姿を気にかけるようになる。2018年より作品の制作を重ね、自身の身に近い生物や自然の持つエネルギーを表現することを試みるため、サーモグラフィーカメラを使用して生物の息吹を可視化させる作品の制作に着手。同作品で2019年「キヤノン写真新世紀」優秀賞を受賞。また、現代の社会問題と自然や生き物への敬愛を同時に表現するためリサーチを開始。その結果を関連付ける実験的で抽象的な表現を試み、継続中のプロジェクトである〈Negative Ecology〉 で2021年「KG+ SELECT」グランプリ受賞。本プロジェクトは、野生の鹿を撮ったネガフィルムの現像失敗が契機となった。人の日常生活が、野生生物や自然界に侵食している様を想像し、東京から1000km離れ、豊かな自然が存在する北海道で撮影が始まった。撮影後、日常で使用する洗剤、研磨剤、歯磨き粉などの薬品類を混ぜ現像され作成されたネガフィルムは、汚染されダメージを受けているかもしれない野生生物や自然を表すメタファーでもある。化学薬品により損傷したネガから現れる画像は、見方によっては強く鮮やかな姿で私たちの前に表れる。

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