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Column

EUGENE STUDIOがアートを媒介に考える、 これからの世界と社会。【後編】

2021.12.24

文/倉田佳子

現在、東京都現代美術館にて開催中のEUGENE STUDIO(ユージーン・スタジオ)の個展『ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow』。2017年にも資生堂ギャラリーにて個展『THE EUGENE Studio 1/2 Century later.』を開催したユージーン・スタジオは、日本を拠点とする寒川裕人のアーティストスタジオで、今回の展覧会は東京都現代美術館で、過去最年少、そして平成以降に生まれた作家として初となる個展です。

EUGENE STUDIOがアートを媒介に考える、 これからの世界と社会。【前編】では固定観念にとらわれずに作品を発表し続ける寒川裕人さんの考える”アート”についてお伺いしました。後編では、今回の展示の見どころとともに、テーマでもある「共生」についてお話しいただきました。

展覧会ティザー YouTube動画

 本展で寒川は、東京都現代美術館では初となる平成以降に生まれた作家として個展を発表する。平成は令和とまた少し違って、徐々にアナログからデジタルへと移行しつつ、両方に慣れはじめた世代。そして彼らが過ごした学生時代からこの10年間で、瞬く間にハード面はガラケーからiPhone、iPadなどさまざまな形態を変化し、それ以上にソフト面では数々のアプリ開発やコミュニティの誕生/消滅を超えて、そこで行われる人々のコミュニケーションが社会現象を引き起こすほど大きな影響力を持つものになってきた。

「2年前から、web上の情報は1日で5分以内、ということを試しています。制限のプログラムやスクリーンタイムを使って…解除のパスを知っているのはパートナーのみ……情報源はいくつかの新聞のアプリで、合わせて5分。もちろん、メッセンジャーやマップ、天気予報などは使えます。それに大切な情報は誰かが教えてくれるので、案外困ることはなくて……昔から好奇心のままブラウザでの調べ物が早朝まで止まらないという、10年以上抱えていた悩みが解決されましたね」(寒川)

 そんな混沌とした情報社会を過ごす日々に、前編にて触れた新作≪想像 #1 man≫*(英題:Image/Imagine #1)(2021)や展覧会のキーワードである「共生」を包括する展覧会の矛先を決める上で、どのように日常でアンテナを張っているのか寒川に聞くとそんな意外な答えが返ってきた。

「最近は、数分間で直感を頼りに情報を吸収する方が、大きな流れの緒をつかめるような気もします。偏ってしまうときもあると思いますが、なるべくそうならないように……。どうしてもiPhoneで時間を潰したいときは、Apple Musicを……。 直感で聴きます。最近だと、韓国のNCT(男性グループ)や、アメリカのモーゼス・サムニーが本当に素晴らしいですよ」(寒川)

《海庭》
2021年
水、砂、鏡サイズ可変 Photo by Keizo Kioku ©Eugene Kangawa 2021

 ある意味ストイックにも見えるその新たな生活習慣は、作品制作にも大きな影響を与えている。

「自分で十分に考えるという、当たり前のことができている気がします……。考えて、思うことをやる。なにかに流されずに向き合う。もともと美術史や物事の構造を考えるのが好きで……誰かのために作品をと考えることはないのですが、最近は言語化や整理することを一旦脇において……人がやろうと思ったことには必ず意味があるのでいずれ……という感じです。それで、作品の方が寿命が長いので、未来の誰か一人に届くこともあるかもしれない。作品というのは、本質的には作家本人でも、すべてがわかることは決してないと思います。僕がいくら考えて話しても、僕自身が作品について理解していることは、100年後からみたときには、数%に満たないだろうと……それが面白いところですよね。ほかには、美術館にすべてをもっていくことはできないので、何をスタジオに置いていくか、ということをこのごろ考えています」(寒川)

奥:
〈レインボーペインティング〉シリーズ
《群像のポートレート(人の世)》
2021年
カンヴァスに油彩 291.5 × 212cm Photo by Keizo Kioku ©Eugene Kangawa 2021

 生活習慣以外にも、7、8年前からさまざまな企業と人工知能やバイオテクノロジー領域などの共同研究開発を行うにあたって、じかに研究者や作り手と一次情報を交換できたことも大きな経験になったと語る。そこで交わされる実際の情報が、社会における大きな軸の「予測」につながっていることを肌で感じたことで、自らの情報の吸収の仕方に変化がでてきたそうだ。そうして有象無象の情報社会の中で、自らの嗅覚と一次情報をキャッチできる環境に身を置き、そこから生まれる作品が人々の未来を前進させるためのひとつのアイデアへと循環していく。現代社会において思考を深める純度の高い環境を保てていることすら並大抵のことではないが、その研ぎ澄まされた感覚をもとに自らが信じる考え方や価値観を社会の中でどのように認識するかが「共生」への大切な第一歩になると続ける。

「さまざまなバックグラウンドを持った人々と直に接することができたのは、とても幸運で重要な経験でした。その研究開発のときも、〈ホワイトペインティング〉シリーズ(2017‐)を制作したときも。やはり、実際に話すというのは、本やSNSの言葉とは違うんですね。それで、たしかにそこから、色々なことを『予測』していく力は培われたかもしれません。けれど、僕がそうして知れたこともほんの一部で、当然、全く違う考え方や感性、価値観を持っている人々がいる。言葉では当たり前のことなのですが、肌で体感したことがよかったと思っています」(寒川)

《善悪の荒野》
2017年
陶器、鉄、木、ガラス、灰 他 240 × 873 × 300cm Photo by Keizo Kioku ©Eugene Kangawa 2021

 個人の意見を持ちつつ、他者や社会との対話においては俯瞰して一度ニュートラルな視点を胸の中に置いてみる。それは決して自分の意見を下敷きにした社会との強制的な協調とも違い、それぞれが異なることを前提とした現代における新たなコミュニケーションの向き合い方なのかもしれない。

「今回、作品の内側に、多視点性、多角性が含まれていると思います。それと最近、『人は、視線を遠くにやる、もしくは焦点が定まらないとき、脳は想像という運動をはじめる』ということを見つけて――焦点が合わないときの目の運動は、『想像する』という脳の運動を促しているのではないかと……これは一つの発見でした。僕は自分の作品を見ているときにそのことに気づいたのですが、たとえば、水平線や空の向こう、森の影など、見ようとしても見えないときに、なにが来るかわからないので、想像をするという頭が働く。抽象的という状況は、実はそういう仕組みだったのかもしれない。古来から。今回の展示の構成ではそういったことも理論的に実験しようとしています。例えば、最初の〈ホワイトペインティング〉シリーズでは、目では焦点は合わせられない。水と鏡の《海庭》では視線が遠くへいきやすい。〈レインボーペインティング〉シリーズも、普段から歩を緩めて物事を『よく見ようとしている』場合と、そうでない場合で、見え方が変わる作品だと思います。それで彫刻作品の《想像 #1 man》は、焦点はなくなり、多数を越えてほぼ無限のイメージが存在できる。そのような構成を考えています。もちろん、先程お話したように、僕がいくら話をしても、作品や空間は、ことばはもちろん想像を超えることがあるのですが。
 あとは……一人のなかにも、複数の視点がありますよね。ときには相反するようなことも。どのような人でも、なにかを経て、あるいはその日の状況で、視点は変化していくものだと思います。僕もそうでした。昔は、コンセプチュアルな作品は視覚的に面白くなくて理解できなかった。展覧会や作品というのは、そういった、個人のなかにある、変化していく視点を見出しやすいという特性があるように思います」(寒川)

 そうして寒川自身も、発達するテクノロジー社会との心地よい距離を模索しながら、私たちを取り巻く環境と社会を前進させるための未来への想像を膨らませていく。彼の目には未来はどのように見えているのだろうか?

「現在を十分に想像することができたら、自ずと未来が見つかるかもしれない。自分のこと、まわりの人のことに十分に想像を巡らせずに、未来を考えるのは少し難しい。環境の話にしても、多様性にしても、それを強制するだけでは、いずれ歪みがでるかもしれません。その一歩手前にあるであろう、想像をする力が重要なのだと思います。話す前に、行動する前に、一度、想像してみる。少しゆっくり進むことになるかもしれませんが、その連続が、少しずつですが良い未来をつくるのではないかと思います」(寒川)

《想像 #1 man》*:暗闇のなかに1体の彫像が置かれているが、目を凝らしても実態をみることができないため、自身の五感を最大限に働かせ、想像力を可能な限り開いていくという体験ができる。

右:
〈ホワイトペインティング〉シリーズより
Juliette, Sandra, Mitch, Wills, Gillies, Ergas, Asheron, James, Lilly, Thomas. P, Elias, Sofia, Victoria, Mackay, Jamin, Amelius, Prince, Cathy, Valerie, Keiny, Peter, Dona, Sam, Zaret, Christina, Laurencie, Owel, James, Kairy, Frances, Thom, Sugay, Marien, Kinbary, Kalen, Morry, Callen, Mut, Elen, Bruno, Peter, Daele, Clara, Benjamin, Charlotte, Michael, Ryan, Ina, Diego, Javia, Candelas, Robin, Rucaro, Daniel, Rumi, Benney, Sarah, Emily, Jack, Peter, Kevin, Safiya, Trisha, Eric, Danielle, Paul, Floyd, Alexis, Carlos, Nydia, Samantha, Daniela, Michael, Dom, Matt, Todd, Ava, Cailin, Melissa, Kirby, Alexandra, William, McGuiness, Liliana, Francisco, Daniel, Patricia, Anna, Dalia, Ricardo, Diana, Maribel, Barbara, Gabriela, Cristel, Kenia, Lorenzo, Gladys, Alberto, Carlos

2017年
カンヴァス 160 × 160cm

左:
《海庭》
2021年
水、砂、鏡 サイズ可変 Photo by Keizo Kioku ©Eugene Kangawa 2021

EUGENE STUDIO / 寒川裕人(ユージーン・スタジオ)

寒川裕人(かんがわ・ゆうじん 1989年アメリカ生まれ)の日本を拠点とするアーティストスタジオ。ペインティングやインスタレーション等を中心に、過去に資生堂ギャラリー(東京)個展「THE EUGENE Studio 1/2 Century later.」(2017)、国立新美術館「漆黒能」(2019)、金沢21世紀美術館「de-sport」展(2020)ほか、サーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)「89+」(2014)、資生堂ギャラリー100周年記念展でのイギリスの建築家集団アッセンブルとの展示、アメリカを代表する小説家ケン・リュウとの共同制作(2017)など。
2021年よりアメリカで発表された2つの短編映画は、ブルックリン国際映画祭、ヒューストン国際映画祭、パンアフリカン映画祭ほか、アカデミー賞公認を含む10以上の国際映画祭で受賞、オフィシャルセレクションの選出が続く。
https://the-eugene-studio.com/

『ユージーン・スタジオ 新しい海 
EUGENE STUDIO After the rainbow』
会期:2021年11月20日(土)-2022年2月23日(水・祝)
休館日:月曜日 (2022年1月10日、2月21日は開館 )、年末年始 (12月28日-1月1日 )、1月11日
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の 30 分前まで)
観覧料:一般 1,300円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 900円 / 中高生 500円 / 小学生以下無料
会場:東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
https://mot-solo-aftertherainbow.the-eugene-studio.com/
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館
協賛:株式会社ゴールドウイン、株式会社 資生堂

クリエイターの紹介

倉田 佳子

ライター/編集者

1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、Fashionsnap.com、HOMMEgirls、i-D JAPAN、SPUR、STUDIO VOICE、SSENSE、TOKION、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM & PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。

Photo by Mayuko Sato
https://www.instagram.com/yoshiko_kurata/
https://twitter.com/_yoshiko36

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