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Column

2021.10.13

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2021」にて「MEP Studio(ヨーロッパ写真美術館)による5人の女性アーティスト展」が開催中。

文/小川知子

現在、「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2021」が開催中です。なかでも注目なのが、HOSOO GALLERY(京都市中京区)で行われている、今後、世界での活躍が期待されているアーティストによる「MEP Studio(ヨーロッパ写真美術館)による5人の女性アーティスト展 ─フランスにおける写真と映像の新たな見地」。本展に参加しているアーティストに今回の作品について、アートを使って伝えたいこと、そして新型コロナウィルスによって変化する社会の状況について考えることなどをライターの小川知子さんが聞きました。会期は17日(日)まで、ぜひお近くの方は足を運んでみてください。

©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2021

 2018年に若手女性アーティストの支援を目的とした施設「Studio」を新たに開設したパリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)の館長サイモン・ベーカーがキュレーターを務める、5人のフランス人若手女性アーティストによるグループ展「MEP Studio(ヨーロッパ写真美術館)による5人の女性アーティスト展」が第9回目の「KYOTOGRAPHIE 」(10月17日まで)の一環として開催中。グループ展に参加している、マノン・ロンジュエール、そして二人組のユニット、ニナ・ショレ&クロチルド・マッタに話を聞いた。

 フィルムを現像していたときについてしまった塵が雷のように見えたことから構想が生まれたマノン・ロンジュエールの作品「The unpredictability of Lightning (雷の予測不可能性)」。この作品は自身で撮影し、加工した古写真のように見えるポートレートや風景写真、実際のファウンド・フォトを折り混ぜながら、架空の暴風雨という自然災害を出発点としたフィクションのストーリーを紡ぐ。主に気象学と天文学に関連したテーマを扱う彼女。「あらゆる文章、写真という概念、ひいてはそれを構成するあらゆ記憶も信頼できるものなのかという問いを投げたかった」という理由から、雷というアクシデントをテーマにしたのだという。

 「空は巨大な黒いスクリーンのように、私たちの夢を投影するための美しい面であるように感じています。科学の歴史は写真と密接に関係していて、様々な標本の保存や研究に写真というメディアが使われている。写真の始まりは、その機械的な側面から科学的なイメージと結びついていたことがわかっていますが、次第に “ドキュメンタリー”としての価値をもつようになりました。写真は真実を見せるべきだという固定概念を覆すことや、写真における矛盾を興味深く感じています。そして、私の作品では、偽の科学的文書、つまり写真の“おとり”を作ることで、遊びの側面を取り入れ、見る人が目にするイメージの状態を疑うように仕向けています。また、文学的なインスピレーションを織り交ぜながら、未来の世界の可能性を示す架空の世界を創造しています」(ロンジュエール)

Marguerite Bornhauser
Moisson rouge, 2019
© Marguerite Bornhauser
Manon Lanjouère
Lumineuse Pétrification, 2017
© Manon Lanjouère

マノン・ロンジュエール
1993年生まれ、現在パリ在住。パリのソルボンヌ大学で美術史を専攻した後、アニメーションの専門学校ゴブランで学び、2017年に同校を卒業。文学からインスピレーションを受けた写真活動は、設定された架空の世界と、科学的なイメージを使用することを特徴としている。現在、新しいプロジェクト「Mémoire d’un future(未来の記憶)」に取り組んでおり、本プロジェクトは、CNAP(フランス国立造形芸術センター)とパリのジュ・ド・ポーム国立美術館が共同で行う「Image 3.0」の委託制作作品として進められている。

 

 そして、映像作家でダンサーのニナ・ショレ(1991年レ・リラ生まれ)と美術作家で女優のクロチルド・マッタ(1991年パリ生まれ)のユニットは、実験的なプロジェクト映像シリーズ<>を展示中だ。タンジェ(モロッコ)とローマ(イタリア)に滞在し、撮影された2つの映像が交互に流れる構成となっている。2020年3月に3月に撮影したローマの映像に関しては、パンデミックの影響を受け、距離を取りながらの編集作業を経て、完成させることとなった。

 「欲望は親密性と直接に関連していると考え、自分たちの身体を使い、それをもとに映像に使う素材のテクスチャーを選んでいきました。女性が身体を見せる文化があまりない都市タンジェはナラティブで二極性があり、ローマは造形的に依った作品になっています。私たちの映像作品は、出会いや逸話、女性や都市の物語によって成り立っていて、欲望の一面を探っています。これから制作する第3部に向けたリサーチをする中で、9世紀に日本で活躍した小野小町という、詩人を発見しました。言葉にならない空白を残している、謎に包まれた女性です。身につけていた人、もう存在しない人のある種エロティックな力がその洋服に残るように、不在というものがどのようにして魅力的な力を生み出すのかを、彼女を通じて探ろうとしています。状況が許せば、すぐにでも京都で撮影したい気持ちです」(ニナ&クロチルド)

Nina Cholet & Clothilde Matta
ELLES, Tanger, 2019
© Nina Cholet & Clothilde Matta
Nina Cholet & Clothilde Matta
ELLES, Tanger, 2019
© Nina Cholet & Clothilde Matta
Installation view of Nina & Clothilde
©︎ Mikoto Yamagami-KYOTOGRAPHIE 2021

ニナ・ショレ&クロチルド・マッタ
美術作家/女優のニナ・ショレ(1991年レ・リラ生まれ)と、映像作家/ダンサーのクロチルド・マッタ(1991年パリ生まれ)は、2018年から多分野にまたがるユニットとしてコラボレーションを行っている。虚構と現実の境界線を曖昧にしながら、写真、映像、パフォーマンス、インスタレーションを組み合わせた作品を制作している。彼女らの芸術的研究は親密さを描写するため、感覚的かつ直感的なアプローチに焦点を当てている。2人の作品は、官能的で詩的なイメージを用いながら、女性の身体の表現を扱っている。2018年以降は世界各国にて、欲望と公共空間における女性の居場所について、短編ビデオの野心的なシリーズ〈ELLES〉を展開。2019年、最初のエピソードである《ELLES, Tanger(彼女たち、タンジェ)》は、「ユーメイン・フェスティバル 」(モロッコ・タンジェ)とヨーロッパ写真美術館(パリ)で上映。コラボレーションと並行して、個々の活動も活発に行なっている。

 

 ジャンルや分野の垣根を越えて活動するフランスの新世代の写真作家たちの表現の豊かさ、多様性、そして独自性を紹介する本展では、ファッションフォトグラファーとしても活躍するマルグリット・ボーンハウザーの写真、見えないものをテーマに作品を構築するアデル・グラタコス・ド・ヴォルデールのインスタレーションも合わせて展示されている。

Marguerite Bornhauser
Moisson rouge, 2019
© Marguerite Bornhauser
Marguerite Bornhauser
Moisson rouge, 2019
© Marguerite Bornhauser
Adèle Gratacos de Volder
Still from Jamais indemne, 2019
© Adèle Gratacos de Volder

 本展は、アートとカルチャーの分野で活躍する女性に光を当てることを目的として2015年に発足したケリングのプラットフォーム「ウーマン・イン・モーション」により支援されている。アーティストたちは、パンデミックの影響によって、ジェンダーやエスニシティ(民族性)に関する世界の変化をどのように受け止めているのだろうか。

「パンデミックが理由で、ジェンダーやエスニシティに関する議論が本当に前進したかどうかは分かりませんが、私たちの社会はここ数年、アイデンティティを問うことで確かに進化してきました。そして、このまま二分化が消え去り、最終的にはジェンダーの不平等や特定の性別を認めないこと、いわゆる人種差別が消滅することを願っています」(ロンジェール)

「世界的なパンデミックは、脆弱だった状況をより悪化させ、既存の不平等が悪化する形になったと思いますが、超高速でつながれる世界では、女性に対する暴力や、社会から排除された人々、マイノリティの不安定さなど、これまで注目されていなかったさまざまなスケールのテーマに目が向けられ、問題が改めて浮き彫りにもなりました。今私たちが経験している状況によって、社会の二元的な側面が解体されるなら、それは他のものを再考するための良い機会だと思いますし、私たちをより身近に感じさせ、結びつけるものが何かを問いかけ、必要な連帯感を強めてくれることに期待したいです」(ニナ&クロチルド)

©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2021
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2021」
「MEP Studio(ヨーロッパ写真美術館)による5 人の女性アーティスト展 ─ フランスにおける写真と映像の新たな見地」

supported by Kering’s Women In Motion

会期:開催中~10 月17 日(日)
会場:HOSOO GALLERY
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小川知子

ライター

1982年、東京生まれ。上智大学比較文化学部卒業。雑誌を中心に、インタビュー、映画評の執筆、コラムの寄稿、翻訳など行う。共著に『みんなの恋愛映画100選』(オークラ出版)がある。
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