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Column

2016.07.15

気をつけたい「おもてなし」

文/古屋 秀恭

絵/大川 久志

最近、「おもてなし」という言葉が個人的にとても気になっています。なぜかというと、少し前にFacebookのフィードで流れてきた海外メディアの記事に、「おもてなし」のことが書いてあったからです。その記事には、「日本人は日本文化が特別で、ほかより優れていると思っている」と批判的な内容が書いてありました。「ハッ」としました。

日本を観光大国にするためのアピールポイントのひとつだと思われがちな「おもてなし」。2013年には、2020年夏のオリンピック開催地を決める国際オリンピック委員会の総会で、滝川クリステルさんが “o-mo-te-na-shi”と合掌しながらプレゼンテーションをして、世界的にメディアに取り上げられ、バズワードになったのも記憶に新しいところだと思います。この日本の文化的にはポジティブなイメージしかない「おもてなし」に対して、ネガティブな反応があるなんて、ショックであると同時に新鮮な気持ちにもなりました。

確かに、日本のホスピタリティーのスタイルとして、「おもてなし」を強調すればするほど、他国のホスピタリティーより優れていると言っている風に捉えられかねません。英語でGoogle検索をすると、「おもてなし=傲慢、偽善」「日本人は自分たちがベストだと思うことを押しつけてくる。マニュアルに頼って、こっちの要望には柔軟に対応してくれない」といった内容の記事が結構ヒットします。日本人的には謙虚な気持ちでもてなしているつもりだと思うのですが。

そもそも、サービスが良いかどうかは、受けた相手が判断することであって、提供する側が強調してしまっては、意味がないのかもしれません。観光大国を目指すため、「おもてなし」のコンセプトがビジネス化し過ぎてしまった気もします。

「もてなし」に丁寧語の「お」が付いたこの言葉。大辞林によると、客に対する扱い、客に出す御馳走、人や物事に対する振る舞い方とあります。ネガティブなニュアンスはありません。海外の人たちとコミュニケーションを図る際、この「おもてなし」の心を、誤解を生じさせずどのように伝えるか。自己満足になっていないか。いろいろと考えされられる、とても大切な課題のように思えます。

古屋 秀恭

ライター/編集者/翻訳者

「The Fashion Post」元編集長。現在はフリーランス(Northern Projects)。ロンドン大学SOAS政治学部卒。翻訳(日英・英日)の専門分野はファッション、カルチャー、アート、そしてIT。
http://www.northern-projects.com

大川 久志

イラストレーター

1984年生まれ。兵庫県出身、東京都在住。
http://hisashiokawa.com