次の記事 前の記事

Column

2020.05.12

【特別企画】今あなたにおすすめしたい、この作品。Vol.17

新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐために、不要不急の外出をひかえている今。こんなときだから、家でゆっくり過ごすときにおすすめの作品を、日ごろ花椿に協力くださっている方々にお伺いしました。

第17回は、恋愛においてのことばの諸問題について思考を深める連載「恋する私の♡日常言語学」にご登場いただいている文筆家で恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表の清田隆之さんです。清田さんがご紹介くださったのは、マンガ3作品。先の見えない不安と疲れで棘のあることばや行動で人に接してしまったりしていませんか? 思いやりを忘れがちになってしまったり…そんな時に触れて欲しい作品です。

 

こんな今だからこそ、私は優しさについて考えることに関心があります。それは癒やしや安心感をもたらすものである一方、予定調和的で退屈なものというイメージもあります。しかし優しさとは本来、知識や想像力、責任感や創造性など、様々なアビリティを要する難しいものだと感じています。旧来的な概念やイメージを拡大・更新するような優しさの在り方を個人的に「NEO優しい」と呼んでいるのですが、ここではそれを存分に体感できる素敵なマンガ作品を紹介したいと思います。

 

『スキップとローファー』 高松美咲

過疎地から東京の進学校へ首席で入学した美津未とその仲間たちによるスクールコメディ。学園ドラマでよく見る「序列」や「キャラ分け」を巧妙にズラしながら人物像が設計されており、染みついた固定観念を颯爽と塗り替えてくれるところが魅力です。そして登場人物がみんな優しいのにおもしろい作品になっているのも本作の凄みだと感じています。隅々まで張りめぐらされた想像力が生み出す心地よさをぜひ味わってみて欲しいです。

 

『雑草たちよ大志を抱け』 池辺葵

地方都市の高校に通う地味で不器用な5人の女子たちが織りなす青春群像劇。ここにあるのは「私は私、あなたはあなた」という個人主義に裏打ちされたシスターフッドです。みんなそれぞれの問題を抱えている。それは本人が折り合いをつけていくしかないものだけど、そばにいるし、ちゃんと見てるし、いつだって話を聞くぞ──という、彼女たちの友情の在り方が感動的ですらあります。優しさとはカッコイイものなのだということを教えてくれる作品です。

 

『ぷらせぼくらぶ』 奥田亜紀子

ネガティブでひがみっぽい女子中学生の岡ちゃん、コンプレックスまみれで人の悪口ばかり言ってしまう田山、人気者に媚びながら生きる卑屈な男子・武庫島──。本作は、そんなどうしようもなく冴えない中学生たちの生き様が詩的かつコミカルに描かれていく連作短編集です。みんな自我や自意識を扱いあぐね、わけのわからない感情の渦に飲み込まれていくわけですが、最後にふっと、何かが開いて物語が閉じていく。それが言いようのない優しさを生み出しているのが本作の魅力だと思います。

清田隆之

文筆家

恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。
1980年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。著書に『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)、『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)、『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)、澁谷知美さんとの共編著『どうして男はそうなんだろうか会議 いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』(筑摩書房)がある。近著に『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門~暮らしとメディアのモヤモヤ「言語化」通信~』(朝日出版社)、文庫版『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(双葉社)がある。
イラスト/オザキエミ
https://twitter.com/momoyama_radio