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Column

2020.05.08

【詩のレッスン#2】「今月の詩」応募締切迫る!『花椿』と詩の深い関係とは 

詩の公募企画「今月の詩」の応募は6月4日(月)PM17 時までです。
これまでにない日常を過ごしている今、日記を書くように、散歩の途中で見つけたささやかな風景を言葉で描写するように、気軽に応募してみてください。

 

そもそも、なぜ「花椿」で詩の公募をしているのか?と思われる方も多いでしょう。「花椿」と詩には深い深い関係があります。1937年に創刊した『花椿』ですが、1938年頃から詩の掲載がはじまりました。西條八十や堀口大學、与謝野晶子など人気の詩人や作家が詩を寄稿していました。

『花椿』は戦時中に一時休刊し、1950年に復刊します。その復刊号(1950年6月号)で詩を寄稿したのは、今も読み継がれる少女小説『花物語』で、当時一世を風靡していた作家の吉屋信子でした。「銀座」をテーマに、香り立つ瑞々しい詩が掲載されています。

 

そして、70年経った2020年の季刊誌『花椿』夏・秋合併号では、作家の江國香織さんに、復刊号と同様に「銀座」をテーマに書き下ろしていただきました。

 

その街の夜には 
江國香織



その街の早朝に
何台のトラックがやってくるだろう
まだ誰もすっていない空気を
ばたんと
ドアの閉まる大きな音で破って

その街の真昼に
何匹のちょうちょが飛んでいるだろう
あらめずらしいと言われながら
あるいは
運よく誰にも見つからずに

その街の夕暮れに
何人の男女が誰かを待っているだろう
おそらく胸を弾ませて
けれどときには
倦怠や悲しみを抱いて

夜になってもそれらは消えない
何も消えないのだ その街では
かわりにみんながまざりあう
トラックのドアの閉まる音
ちょうちょの羽ばたき
子供たちのよそゆきの服
商談中にさめていくコーヒー
映画を観たあとの高揚
恋人たちの甘いためいき
よっぱらいのたわごと

まざりあうけれど溶けあいはせず
ひっそりとべつべつに
ただそこに在る
その街の夜には

 

 

ぜひあなたの心に宿る素直なことばを書き留めてみてください。みなさまのご応募をお待ちしております。

*この記事は2020年5月に掲載したものです。