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蓮沼執太の月一音一盤

蓮沼執太の月一音一盤 今月の一枚、食品まつり a.k.a foodman 『Yasuragi Land』

2022.03.15

文/蓮沼執太

 

先日、花椿の編集部の担当者さんと今月のテーマを相談していました。どうしても明るいニュースが少ないと感じる昨今、気持ちを切り替えて「グッド・ニュース」と感じてもらえるようなテーマにしたいね、と話していました。そこで出てきたワードのひとつが「サウナ」でした。これまでこの連載で取り扱ってきたテーマとは少し趣が異なりますが、心身の状態を切り替える意味でもとてもよいテーマだと思いました。ということで、今月のテーマは「サウナ」でアルバムを一枚紹介します。

僕は温泉に行ったらまずは身体を洗って、必ずサウナと水風呂に入ります。昨今のサウナブームも大歓迎に感じており、いわゆるスーパー銭湯などにある高温サウナも好きです。また、フィンランド式と呼ばれる蒸気式サウナ、さらには蒸気をふんだんに浴びるロウリュも好きです。ロウリュはアトラクションとしてもとてもユニークなので、未経験の方で興味がある方はぜひ試して欲しいです。僕は暑い(熱い)空間に長時間滞在するのが比較的大丈夫です。たくさん発汗した後に、キーンと冷えた水風呂に入ります。それらを数回繰り返すことによって、身体も、そして精神もサッパリすることができます(これがサウナ用語でいう「ととのう」です) 。サウナの面白いところは、温泉や銭湯などのお風呂と同様に、とにかくいろいろな人が集まることです。そして服を脱いで滞在しているので、より自然な状態で空間をシェアしているところも面白いなと感じます。でも、本当は、人があまり居ないタイミングに一人でじっくりサウナと水風呂を楽しむのが一番の好みです。

海外にもサウナがたくさんありますが、僕はあまり経験はなく、国内で見かけたら必ず試すようにしています。つい寄ってしまうのが名古屋にあるウェルビーという施設です。そんな名古屋出身で、サウナ好きで知られているアーティスト・食品まつり a.k.a foodman『Yasuragi Land』が今月の一盤 です。驚くほど深いサウンドスケープなのに、ビートやベースが極力削られていることで、独特の「ぽこぽこ」とした浮遊するような音がグルーヴィーに響き合っている名盤です。心地よい質感の音が不思議な構造で成り立っているユニークなアルバムです。サウナに入りながら、思考を深めていく状態と似ていて、脳内でダンスミュージックを聴きながら踊るようなトリップ的感覚があります。アルバム1曲目から細かく分解された音の断片が組み合わさり、オリジナルなグルーヴをつくり上げています。Bo NingenのTaigen Kawabeさんとのコラボレーション曲「Michi No Eki」(道の駅)も聴きどころです。エッジの効いたカッティングされたピアノと電子パーカッションの組み合わせは、どこかニュージャズのような雰囲気をまとっている新しい音楽を感じさせてくれます。お弁当箱のようなアルバムのアートワークも含めて、シンプルな音のコンビネーションながらも強烈な個性をビシビシと感じれます 。

もしアルバムが気に入ってもらえたら、2018年発表の『ARU OTOKO NO DENSETSU』も是非聴いてみてください。こちらも名盤です。特にアルバムに収録されている「Sauna」という曲を聴きながら、サウナに入りたいものです。ストリングスシンセの音から、ピアノ音色のカットアップのフレーズ、シンセマリンバのフレーズ、トライバルな音色のミニマルなビート、どれをとっても病みつきになります。サウナに入って身体の中にある水分を放出しつつ、耳からはいい音楽を、心身を整えて、日々の生活を健やかに過ごしていきたいですね。

クリエイターの紹介

蓮沼執太

音楽家

1983年、東京都生まれ。音楽作品のリリース、蓮沼執太フィルを組織して国内外での コンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、音楽プロデュース などでの制作多数。近年では、作曲という手法をさまざまなメディアに応用し、映像、 サウンド、立体、インスタレーションを発表し、個展形式での展覧会やプロジェクトを活発に行っている。2014年にアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)、2017年に文化庁東アジア文化交流使として活動するなど、日本国外での活動を展開。主な個展に『Compositions』(ニューヨーク・Pioneer Works 2018)、『 ~ ing』(東京・資生堂ギャラリー 2018)など。最新アルバムに、蓮沼執太フィル『ANTHROPOCENE』(2018)。『 ~ ing』(東京・資生堂ギャラリー 2018)では、『平成30年度芸術選奨文部科学大臣新人賞』を受賞。
http://www.shutahasunuma.com/

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