ここ最近のファッショントレンドの大きな潮流として顕著なのは、デザインが奇抜すぎない上質&シンプルな「大人のためのリアルクローズ」がアツい、ということ。良いものを長く大切に着たいというサステイナブル志向の広まりもあり、多くのブランドがポジションを争う状態が続く。その中でも頭一つ飛び抜けて、独自のアイデンティティをしっかりと打ち出しているのが茅野誉之のCinohだ。東京ストリート風の気負いのなさと、凛としたエレガンスが共存するスタイル。2018年に東京ファッションアワードを受賞したのを機に、アジアを中心に海外でもじわじわとプレゼンスを高めている。
そんなCinohが今季、20-21年秋冬向けの新作を発表した。
着る人と服が調和するためのデザイン
柔らかな自然光が差す青山のショー会場は、つやつやとしたマーブル模様の床と壁が適度な緊張感を与え、ブランドのクリーンで静謐な世界観を醸す。
「たとえば小柄な人がオーバーサイズの服を着るときに袖をまくったりするように、自分に服を調和させる。人と服が融合するような、そんなスタイリングをイメージしながら、ディテールをデザインに落とし込みました」と今季のテーマを語るデザイナーの茅野。コレクションの軸となるのは誇張されたレイヤードだ。身頃のパーツが一つ余分についたジャケットは、そのパーツを右と左どちらに重ねるかで印象を変える。同じ服を着たモデルが二度登場し、着こなしの違いを見せた
マニッシュで洗練されたビューティー
Cinohの服に身を包んだモデルたちには静かだけれど確かな存在感と、穏やかな自信が漂う。凛々しい眼差しが印象的なメイクアップは、NARSのグローバルアーティストリーディレクター、伊藤貞文によるものだ。Cinohのショーのビューティーを指揮するのは今回で3回目となる。「ブランドの洗練された都会的な雰囲気から、マニッシュでかっこいい女性像をイメージした」という伊藤。ポイントは強い眉だ。眉頭に毛並みを描き、人によってはマスカラでタッチをつけることで、意思の強さを表す。「いかにもファンデーションを塗っているという風にはしたくない」として使用したのが、ハイライトにも下地にもなりスキンケア効果もあるというマルチなブースター。ナチュラルに仕上げたい目元には、ほんのりとツヤと血色感が必要。カラースティックを指にとってラフにぽんぽんとまぶたに色を乗せた。
ショーを見終えたあとに残ったのは、すっきりとした透明感と静かな自信を讃えたCinohらしさ。窓の外から穏やかに降り注ぐ日差しに包まれながらしばし余韻に浸った。
Cinoh
2008年茅野誉之が前身となるブランドを立ち上げ、2014年にブランド名をCinohに改称。ブランドコンセプトは一瞬の時の中に存在するだけでなく、ワードローブ、思い出に残るモノ作り。
https://cinoh.jp/