ボッテガ・ヴェネタの新クリエイティブ・ディレクター、ダニエル・リーのリ・ブランディングが今、大きな注目を集めている。
ボッテガ・ヴェネタといえば前任者のトーマス・マイヤーが成し遂げた偉大な功績が記憶に新しい。確固たるディレクションによって、一躍大人の女性のための洗練されたラグジュアリーブランドとして蘇った。人気の陰りを見せなかったブランドに、さらに新しい風を吹き込むために起用されたのが、イギリス出身の33才、世界的な影響力のあるラグジュアリーブランドの数々で経験を積んだ、ダニエル・リーというわけだ。
そして今年2月のミラノファッションウィークの目玉として筆頭にあがったのは、そのリーが手掛けるファーストランウェイ。ミラノの街角の至る所に、リーがディレクションした2019年スプリングコレクションの広告が並び、ファッションピープルの期待感を高めた。広告で描いたのは、明るい屋外で男の子のように足を組んで座るナチュラルな女性の姿。緑の丘を背景に、潔いブラック&ホワイトのファッションが映える。クリーンでフレッシュ、スポーティーで若々しいイメージが、今までの洗練されたビンテージ感との決別を印象づけた。
ショー当日は真冬の2月とは思えないくらい暖かな晴天だった。センピオーネ公園に特別に建てられたガラス張りのドームで明るい日差しに包まれ、ショーがスタート。その内容をリーによる巧みで鮮やかなブランド刷新の技をキーワードに沿ってご紹介する。
1.ジェンダーの垣根を越えて
今回の初ランウェイで特徴的なのは、メンズとレディスが互いに呼応するようなファッションスタイルだ。共通のシルエットを持っていたり、同じトップスやバッグを男女で共有していたり。コーディネートのキーとなったサイドゴアブーツは、当初はメンズだけに用意されたもの。本番間近のタイミングで、レディスにも同じブーツを合わせた方が今っぽいと判断したという。
以前のボッテガ・ヴェネタで特徴的だったニュアンスカラーを中心とした色使いも刷新。ニュートラルカラーに、敢えてケミカルでポップなカラーを組み合わせてモダンさを演出した。
2.ワークやカジュアルの要素をプラス
リーの好きな車やバイクなど、メンズカルチャーも新生ボッテガ・ヴェネタにインスピレーションをもたらしている。たとえばバッグに使われたキルティング。光沢のあるパフっとした素材だが、これは高級車の内装から着想を得たもの。バイカースタイルを彷彿とさせる上下レザーのセットアップも骨太な女性像をスタイリッシュに表現している。
工具を吊るすハンマーループをはじめとするワークウェアのディテールや、金槌でたたいたように表面がつぶされたボタンといったガテン系なアイデアなど、ラグジュアリーにワークテイストを加えるのが若々しさのポイントだ。
さらに、今季は90年代のパンクロックのテーマも取り入れ。長めのニットにレザーパンツを合わせてブーツインするカジュアルなシルエットや、グラム風のメタルシャツドレスなど、枠にとらわれない芯の強いテイストは往年のカート・コバーンやコートニー・ラブのスタイルを思わせた。
3.軽やかに若々しく=グラフィカルに
さて、ボッテガ・ヴェネタといえばイントレチャート。レザーを編み込んだ、ブランドが誇るクラフツマンシップを象徴するディテールだ。ロゴはなくともイントレチャートがボッテガ・ヴェネタ=高級ブランドと仄めかすということで、「ステルスウェルス(stealth wealth:知る人ぞ知る密かな贅沢)」の代名詞となった。そのイントレチャートに新鮮さを出すために、リーはグラフィカルなアレンジを施す。従来のように斜めに使うのではなく、垂直に編んでみたり、編み込むレザーを極端に太くして、まるで虫眼鏡を覗いているかのように大胆に拡大してみたり、ビジュアル的でポップな手法を利かせている。さらにグラフィカルなアクセントとして、三角のバックルモチーフもアイコン的に多く登場させた。
4.ヘリテージとのバランス
ところでリブランディングにおいては、当然ながら、目新しいアイデアをとにかく盛り込んでいけばそれでよし、といった簡単な話では終わらない。ブランドの根幹にある価値、ボッテガ・ヴェネタでいえばクラフトマンシップを尊重し、ブレることなく表現し続けることも重要だ。そんな意思を示すべく、リーがまずこだわったのが、素材だ。ディレクターに就任後すぐに、今までなかったマテリアルの専門チームを新たに立ち上げた。
さらに、ブランドのルーツであるイタリアらしさもボッテガ・ヴェネタが継承すべきヘリテージの一つで、欠かさずデザイン要素にプラスしている。今季はバッグのデザインに、ミラノの街中に見られる建築物のシェイプや、ドアの装飾モチーフ、街灯のシルエットを取り入れた。
5.遊び心で抜け感を出す
ヘリテージ(伝統)とコンテンポラリー(今らしさ)のバランスだけでなく、女性らしさの表現の仕方にも、リーによるさじ加減の巧みさが大いに発揮されている。
たとえばデコルテを大胆に見せたセクシーなドレススタイル。ここへフェミニンなパンプスを合わせるのではいささかオンナっぽさが強過ぎる。そこで、足の親指部分が大きくなったようなユーモラスなシェイプのキルティングのパンプスをスタイリング。遊び心のあるアイテムでコーディネートを外すことで、女性像に今という時代を投影しようという意図がうかがえる。
ダニエル・リーという若き才能による新しいボッテガ・ヴェネタのあるべき姿の模索はまだ始まったばかり。ミラノでの秋のファッションウィークでもまた新しい試みが見られることを期待している。