2017-18年秋冬ミラノファッションウィークのオープニングを飾ったのは、今最も注目されるブランドの一つ、グッチ。約2年前に着任したクリエイティブディレクター、アレッサンドロ・ミケーレによるデコラティブ&マルチミックスな超個性派スタイルは一大トレンドとなった。
さて、今回はメンズとレディースが統合された初のコレクションで、総点数はなんと119ルックにも及ぶ。ミケーレが織りなすグッチのファンタジーを皆がかたずをのんで見守った。
1. 招待状はレコードジャケット
ミラノのホテルに到着して、フロントでどさっと手渡された招待状の束の中に、一通、やけに大きな封筒がある。実はそれが今季のグッチからの招待状。蛇が自らの尻尾をくわえてサークルを作る古代の紋章“ウロボロス”をデザインしたグッチのロゴが大きくプリントされた茶封筒を開けると、ジャケットには「一体俺たちはこの未来をどうしようというのだろう?」という言葉。ジャケットの内側には、花の活けられた花瓶が3つとその間に無造作に置かれた携帯の充電ケーブルが西洋絵画風のタッチで描かれていた。
2. グッチ新社屋は元飛行機格納庫
今回のショー会場は、昨年秋に移転したグッチの新社屋。ミラノ中心から東へ5キロ、リナーテ空港からほど近い(そして中心地からはやや遠い)場所に位置するだけあって、敷地面積はなんと約3.8ヘクタール。ミラノの他ブランドの拠点と比べても、ただただ広さに圧倒される。以前は飛行機の格納庫だったとのこと。
もちろん全体的にグッチ流のリノベーションが行き届いており、たとえばサンプルが並ぶショールームは壁も絨毯も一面赤の世界。
3. 透明チューブのランウェイ
ピンクみがかった紫のライトに照らされた薄暗い会場を、案内係に導かれて進み、座ったシートの目の前には、高い天井から垂れ下がる厚地の緞帳。前回までと同様、ランウェイの片側だけに客席を設けたスタイルかなと思いながら開幕を待つ。
開始予定時間から30分ほど遅れドラマチックな音楽とともに幕が上がってびっくりしたのは、向こう側にも人がいたこと。細いチューブのようなランウェイを取り囲むように座席が用意されていたというわけだ。
4. 今季のテーマは「鍊金術師の庭」
鍊金術とは鉄や銅などから金を精錬する技術で、中世ヨーロッパにおいて試みが盛んだったもの。現代科(化)学では説明のできないある種、魔法のようなものと捉えて、鍊金術師の庭、つまりは理路整然としたロジックが圧倒されるファンタジーの庭とした。咲き乱れる花々のほか、ハチやチョウなどの昆虫、ネズミや猫、トラなどの動物、そして想像上の動植物がモチーフになっている。
ランウェイをチューブとしたアイデアの裏には、混沌とした不思議な庭をそぞろ歩くモデルたちのイメージがあるという。チューブ中央にそびえ立つのは風見鶏を頂点とした紫色のピラミッド。
5. 「自己表現を体現せよ」byミケーレ
今季もレディースルックの半分以上がロングスカート。ボウタイや白襟などモチーフもレトロでエレガントな印象が強い。レトロとはいっても、豪華な刺繍やスパンコールがやり過ぎと思われるほど施され、贅沢でカラフルな素材を使い、鮮やかな柄を組み合わせたり、服の脇役に収まらない個性派ベルトやバッグ、印象的なタイツにシューズをコーディネートするなど、全体としてはアバンギャルドと言えるほどデコラティブだ。
アイテムだけでもインパクトが強いのに加え、スタイリングも細部まで趣向が凝らされている。自分が思い入れのあるアイテムを全て身に纏ってきたかのようなコーディネートを見ているとドレスアップコンテストあるいはファッショニスタのパーティーに紛れ込んでしまった気分。ミケーレが最近好んで使うフレーズ、“Be the voice of self -expression(自己表現を体現せよ)“を表現するにふさわしいショー内容だった。
6. 注目なのは80年代風モチーフ
デザイナーによっては、毎季全く違ったイメージで驚かせるタイプもいるが、ミケーレの場合はシーズンごとの移り変わりが緩やかで、まるでどんどん続く絵巻物を見ているよう。美しい色使いと柄の組み合わせによるグッチ流の華やか、かつやや奇妙な世界観はそのままで、季節を追う毎に少しずつ新しいモチーフが付加される。今季はパワーショルダージャケットや、エアロビクススタイル、メタル系ロックファッションなど80年代要素がプラスされた。ヘアもちょっとレトロに作りこんだエイティーズスタイルが多い。
7. アクセサリーは蚤の市のビンテージもの風
アクセサリーも見所がいっぱい。ミケーレ本人の手元を見ても、いつもほとんど全ての指にリングがはめられているが(時には1本の指に2個以上)、ショーのモデルたちも同じようにスタイリング。今季はアンティークな輝きの昆虫の指輪や、日本の能面から着想を得たと思われる鬼や白狐などユニークなリングもあり。
他にも、昭和天皇がかけていたようなクラシックな丸メガネや、握り部分が猿の頭のステッキなど、ショー後にアイテムが展示されたショールームを歩いていると、どこかのビンテージショップに迷い込んでしまったような気になってくる。
All photos by Antoni Ruiz Aragó (Courtesy of Gucciを除く)