何事も理屈から入る方である。
年末のさあ大掃除!という時でも、動き出す前に断捨離の本を手に取る。今年こそは運転するぞ!と思い立てば、まずAmazonのホームページで「ペーパードライバー」と入れてみる。
万事がこの調子で、なんでもかんでもとりあえず本を探してしまう。理屈というより、もしかしたら本という物体の存在に安心する、というのが正しいのかもしれない。手にしたことで、知識やらスキルやらが確かなものとして手に残ってゆく気がするのだ。
そんなアナログ体質の私は、「変化」という言葉を聞くと、どうも及び腰になってしまうのだが、さて最近、変化、変化、と身の回りが実に、ザワザワしているのです。
遠くを眺めるとトランプ大統領就任やイギリスのEU離脱問題など世界情勢の変化、会社でもいつになく新しいことを!というムードが満ち満ちていて、そして家に帰れば春から長男が一年生。現状で満足、もうしばらく今のままでいたいかな、と思っていても、変化の波がそれこそグイグイと押し寄せ、気がつけばずるずると押し流されるがまま。危うく溺れそう……。
ファッションの世界も例外ではなく、今、大きな転換期を迎えている。
SNSの存在感が増すに連れ、昔ながらのランウェイショーのあり方に変化が迫られているのだ。とくに昨年の9、10月に行われた2017年春夏ファッションウィークでは、NY、ロンドンを中心に、発表するタイミングやコンテンツを替えたり、ショー形式を変更したり、とデザイナーたちの試行錯誤が顕著で、大いに話題になった。
そんな変化の波の大きなうねりの中で、自分たちのスタイルを守りながらも、時代の気分を上手に取り入れ際立っていたのがドルチェ&ガッバーナ。
ミラノでのショー開催後にインスタグラムへ寄せた彼らのコメントが印象的だった。
「スタート地点はもはや服ではありません。自分たちの物語を伝え、感情をあらわにし、生き様を見せたいという切なる願いから始まるのです。となれば、人々が購入するのは単なる一枚の服ではなく、思い出や愛、特別なひと時、そしてDNAなのです」
彼らのDNAが込められた服?!
言葉どおり、17年春夏はトロピカルというテーマを彼らのルーツ、イタリア流に解釈した。
パスタやピザ、ジェラート、トマト缶や宗教画などイタリアを象徴するモチーフが並ぶ。バロック調のクラシックなデザインに、華を添えるのはドルチェ&ガッバーナらしい鮮やかな色使いと、立体的な刺繍、アプリケなど手の込んだディテール。LEDライトがピカピカ輝くヘッドピース、まるでホテルのスリッパのようなリラックスムードの足元といった小物使いに遊び心が光る。
「もうファッションにはルールなどないのです。大切なのは自分自身に忠実でいられるかどうかということ」
というメッセージは、スパンコールがびっしりと縫い付けられたコートにジーンズを合わせるなど、思いつくまま自分の好きなものだけを身にまとったようなコーディネートに現れている。
今季はルック数も多く、キラキラと美しいファッションに身を包んだモデルたちが次から次へと目まぐるしく登場。まるで夢の中での出来事のようなうっとりとした時間が流れた。
さて、ドルチェ&ガッバーナのコレクションに時代の活力を与えたもう一つの要素は、ストリートダンスだ。
ちょうどショーが始まる直前に、来場者の出入り口とは違うところから、わらわらと大勢の若者が入ってきたので、その風貌(くたっとしたネルシャツにバギーパンツなど、ショー会場にはややそぐわないかしら、と思うような普段着)から、会場設営の大道具さん?と思っていたのだが、実はナポリから連れてきたダンサーたちだった。
ライトが消えショーの始まりを告げられると、モデルたちよりも先に、後ろに控えていた彼らがうわっとランウェイに押し寄せた。それぞれ思い思いの即興的なダンスを始める。
ダンサーを起用したショー演出はそれほど珍しいことではないのだが、今回はその人数の多さが圧倒的。狭いランウェイでひしめき合うようにダンスする彼らの姿が、混沌とした時代のエネルギーを思わせた。
フィナーレにはまたダンサーたちがランウェイに合流して、最後は観客も一緒に踊りだした。音楽を聞いていたら、あるいは踊っているのを見ていたら、なんだか勝手に身体が動き出してしまった、そんな雰囲気。
変化を前にして、心の準備ができてない、なんだかんだと言う前に、その流れに乗っかってしまえば、案外心地よいということに気づかせてくれたショーでした。
COVER & BACKSTAGE PHOTOS by DOLCE&GABBANA