子どもたちが願いごとを書くために七夕の短冊を持ち帰ってきた。
「はがはやくぬけますように」。
五歳児は拙いながらもきっぱりと自筆でしたためる。
どうせならもっと叶いそうにない大きなお願いをすればいいのに、といった大人の打算的な考えは心の中にしまっておくとして、七夕飾りを見てジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン2016-17年秋冬のショーがよみがえってきた。
ショー会場で隣り合わせたのは、大御所ファッションジャーナリストで今は『VOGUE』のインターナショナルエディターを務める(そして私が密かに心の師と仰ぐ)、スージー・メンケス氏。
彼女にジュンヤ ワタナベのショーの最中、
「これは“オリガミ”って表現してもいいかしら?」
と尋ねられたのだ。
ショーで発表されたのは、構築的な立体図形が複雑に組み合わされたような、まさにハイパーコンストラクションなドレス。
とっさに「イエス」と答えつつも、
うーん、折り紙というよりは、もっと構造が複雑だし……。私に聞くということは、日本人としてどう見るかと問われているわけだから、伝統的な紙細工とでも訂正しようか。そういえば、七夕の網飾りのように見えなくもない。じゃあ七夕の由来から説明する?? というのは明らかに冗長過ぎるし。まぁ端的に言えば、“オリガミ”でいいのか。
でもやっぱり、“オリガミ”と単純化するのは心苦しい……。
とショーのあいだ中ずっと、行っては帰るモデルたちの姿をながめながらぐるぐる考えることになった。
ファッション用語“origami”は、まさしく日本の折り紙から来ていて、紙のように畳まれたプリーツ技術や、ペーパークラフト感覚のディテールを指すときに使われる。
でも日本人の感覚からすると、今回のジュンヤ ワタナベの複雑で構築的なルックの数々は、単なる“オリガミ”という言葉では何とも物足りない。クリエーションに表現が追いついていないもどかしさを感じてしまうのだ。
デザイナーである渡辺氏がこのコレクションに取り掛かる際は、布で図形を一つ一つ作るところから始めたという。布といっても、構築的な形を作りやすいように、車のシートに使われる素材などハリ感のある工業用テキスタイルを採用。ショー後の展示会の際に、間近でじっくりと見てみても、いったいこれらはどう形作られているのか、それがどのように繋がっているのか、どう縫製したのか、全くわからず圧倒されるばかり。
そんなとてつもないクリエーションに、ただ驚き感激するだけでなく、言葉を尽くして表現しなければならない、と思いを新たにした
ショーでのできごとでした。