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Column

2020.09.29

大切な人と見つめる、優しくてあたたかな光。

 初の写真集『うたたね』(2001年刊行)から約20年。自身の出産を経て、子どもとともに過ごす3年間をまとめた新作写真集『as it is』を刊行した写真家の川内倫子さん。
 子どもとの時間や日常を大きく変えた新型コロナウィルス下での暮らしで考えたことについて、川内さんにお話をお伺いしました。

 9月に刊行した川内倫子さんの新作写真集『as it is』 は、新型コロナウィルスの影響で人々の生活に色が無くなってしまったなかで、世界にはちゃんと色があることを改めてきづかせてくれる、そんな写真集です。
「版元であるフランスの出版社の方に、出産して1年くらいの頃にオファーをいただきました。当時は子どもの写真をまとめて本にするなら20歳くらいになったときがいいかなと考えていたのですが、3歳までの子どもは、人間が自然の一部であると強く感じさせてくれる特別な時間で、この時間にある“何か”を写真集でまとめてみるのも良いかなと思ったんです」

 川内さんは2017年に生活拠点を都内から千葉に移し、自然のなかでの暮らしをスタートさせていました。コロナ禍を経て感じたこと、考えたことはどんなことだったのでしょうか。
「都心にも空港にも近いということで千葉に引っ越しをしましたが、近くには知り合いがまったくいませんでした。以前は気軽に遠方に住む友達に会いに行ったり、実家にも行けましたが、コロナの影響でそれができなくなりました。コロナ前には寂しいと感じたことはなかったのですが、こんなにも人に会えないんだ、と。親にもなかなか会えない日々が続いて、もう少し近かったら車でいけるのに…と思ったりして、近くに住むことの良さなど考えたりしました。この先親が歳をとり、親と過ごせる時間は限られている、このままでいいのかと。今回の経験は、親や家族との関係性について振り返る時間になりました。この後、日常が戻ってきたとしても、このことは考え続けなければならないと思っています」

展示会場にて。photo by Nico Perez

 写真集を開くと、目に飛び込んでくる真っ青な空の写真。そして1冊のなかに川内さんのことばが散りばめられ、最後の文章には“青空”という言葉が登場し、はじまりとおわりがつながります。
「娘が生まれた日が、抜けるような青空で、それがすごく印象的だったんです。写真集を作るときにはいつも“循環”や“サイクル”というテーマが根底にあるのですが、この青空の写真ではじまり、言葉の“青空”を最後に置いて、はじまりとおわりをつなげています」と川内さん。子どもの3年間の記録であるとともに、そこから広がる未来をも想起させてくれます。

 初写真集『うたたね』から一貫して、身近なものから自然や宇宙といった壮大な世界を見つめて続けてきた川内さん。この写真集ではその“まなざし”に変化はあったのでしょうか。
「自分ではそんなに大きな変化はないかなと思っていたのですが、周りの人からは、変わったねと言われますね。やっぱり、子どもをもつということ自体が大きい変化というか、自分に大きな影響を与えてくれていますよね。子どもを育てなくてはならないし、責任が生まれて、長生きしなきゃなと思っています」。ページをめくるごとに変化していく子ども笑顔や真剣な表情、父親や母親を、そして世界を見つめるまなざしに読者もその成長を感じずにはいられないはずです。
「娘は最近では、撮らないで!って言うようになったり、成長したなと感じる瞬間がありますね(笑)」
「『うたたね』のときはまだ若かったせいか、ふわふわして方向が定まっていなかった。その時の良さもあるけど、いまは“生きる”方向に向かった感じです。子どもって、すごい光。日々、彼女にすごく助けられているなと思っています」

展示会場にて。Photo by Nico Perez

 写真集刊行を記念して、恵比寿の「POST」にて展覧会が開催されています。出産からの3年の軌跡が感じられる映像作品などが展示されていますので、写真集と展覧会で、川内さんがとらえる優しくてあたたかい光を感じてみてください。

写真集概要
写真集『as it is』
仕様:144P+テキスト差し込み18P
定価:3,000円+税
https://www.torchpress.net/product/2125/

展覧会概要
川内倫子「as it is」
会期:2020年9月4日(金)~2020年10月11日(日)
会場:POST
〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南2-10-3
時間:11:00-19:00
定休日:月