新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐために、不要不急の外出をひかえている今。こんなときだから、家でゆっくり過ごすときにおすすめの作品を、日ごろ花椿に協力くださっている方々にお伺いしました。
第13回は映画監督の河瀨直美さんに、美術家、篠田桃紅さんのエッセイ集『桃紅百年』をご紹介いただきました。昨今のコロナ禍で人との距離を置くことを強いられているいま、あらためて“一人の人間として立つことのたいせつさ”を、篠田さんの生きざまをとおして知るようです。
篠田桃紅 『桃紅百年』
美術家であり、エッセイスト。そして現在107歳の女性、篠田桃紅。オススメの本書は彼女の66歳から99歳までに書かれたエッセイをまとめたものである。この本には、彼女がいかにひとつのこと、「書」に打ち込んできたのか、そしてその行為を通して発見を繰り返してきたのか、ということが克明に書かれている。その言葉を、ページをめくるごとに深く刻む。何よりも、言葉の選び方に心動かされるのだ。大正2年に生まれ、第二次世界大戦では肺を患い二年の療養生活を経て、43歳の頃に当時は一般の渡米が許されないニューヨークへ単身渡る。洋服ではなく着物で生活するのは身に纏うという行為が好きだから。「布と布との間にこもる匂いが秋を告げる」とは、なんと風情のある生き方か。生涯独身を通し、百歳を超え今も尚、「ただただ一人立っている」ことの悦に入られている。「しんじつ」とは、「わかる」と「感じる」とのどちらでもなく。この二つの間にあると言い切る美術家の生き方に憧れる。