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Column

2023.12.27

映画から考える、エナジーとは?

文/小川知子

2023年、『花椿』は「OUR ENERGY」ということばをテーマに、エナジーとは何か? それぞれの人にとってのエナジーについて思いをめぐらせてきました。エナジーとは日々を生きるうえで、自身を動かすとても大切なものです。
2023年の締めくくりと2024年の新たなスタートが近づくいま、今回はライターの小川知子さんが選んだ映画作品4本を通して、エナジーに触れてみたいと思います。
あなたはどの作品にエナジーを感じますかーー?

 他者のエナジーに触れると、それがポジティブであれネガティブであれ、思考のきっかけになったり、対話が始まったり、何かしらの現実の小さな行動へとつながったりする。映画というメディアもまた、ひとつの作品を生み出すために集まったさまざまな人々、そして観客のエナジーが交流する物語であり、時間であり、空間ではないかと思う。自分だけの世界に少しだけ変化が訪れ、新しい細胞や感情みたいなものが生まれていく。そうやって人に働きかける何かこそが、エナジーなのかもしれない。

#1 『哀れなるものたち』

天才外科医によって胎児の脳を移植され蘇った女性ベラは、世界を知るために知的好奇心が赴くままに旅に出る。奇才ヨルゴス・ランティモス監督が、スコットランドを代表する作家アラスター・グレイの原作を、エマ・ストーンを主演に迎えて映像化した本作に溢れるのは、知る喜びという高揚感である。社会に敷かれたルールから個を解放させるために全力で問い、実践する子どものままのまなざしは、資本主義社会や男性優位社会における格差や不平等といった不条理といった「哀れなるもの」を知り、軽やかに飛び越えていく。抑圧され、世界が真っ暗闇にしか思えなくなってしまった大人たちの想定を気持ちよく足蹴にする本作は、純粋で色鮮やかで逞しく、主体性のあるエナジーに満ちている。

『哀れなるものたち』
原題:POOR THINGS
2023年度作品/イギリス映画/白黒&カラー/ビスタサイズ/R18+
上映時間:2時間22分 字幕翻訳:松浦美奈
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
2024年1月26日(金)全国ロードショー
https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings

#2 『最悪な子どもたち』

フランス北部の貧困地区を舞台にした映画の企画の公開オーディションで、地元の問題児4人が選ばれ、監督は彼ら自身をモデルにした作品を撮り始めるーー。本作を手がけるのは、キャスティング・ディレクターと演技コーチの経験をもち、数千人の子どもと向き合ってきた新進監督コンビのリーズ・アコカとロマーヌ・ゲレ。二人は映画という媒体を、誰が代弁するでもなく、恵まれない境遇にいる彼ら自身の声を届ける場として機能させる。演じるのは、実際に、撮影地の学校や児童養護施設での公開オーディションで選抜された演技未経験の子どもたちだ。まさに驚くべき演技の才能を開花させている子どもたちの爆発的なエナジーは、フィクションと現実をつなぎ、最悪な状況から希望のある未来を描いてみせる。

『最悪なこどもたち』
監督:リーズ・アコカ、ロマーヌ・ゲレ
出演:マロリー・ワネック、ティメオ・マオー、ヨハン・ヘルデンベルグ、ロイック・ペッシュ、メリーナ・ファンデルプランケ
2022/フランス カラー DCP/2.35:1/ 100 分
原題:Les Pires/ 英語題:The Worst Ones/ 字幕:横井和子
© Eric DUMONT Les Films Velvet
配給:マジックアワー
シアター・イメージフォーラムほか全国公開中
www.magichour.co.jp/theworstones

#3 『バービー』

理想的な女の子像として長らく君臨したバービー人形が、世の中の変化とニーズに合わせて多様化を遂げた現代。バービーランドに暮らすマーゴット・ロビー演じるバービーは、突然老いや死についての不安を抱く。監督グレタ・ガーウィグは、本作の出資者であるマテル社、そしてバービーの功罪を無視することなく、少女たちに夢を与える名目で社会的、性的役割分担を押し付けられながらも、生殖器はないことにされてしまったバービーズ&ケンズを、既存の男女のパワーバランスを反転させながら解放に向かわせる。こうあるべきという狭い道から外れないように歩く綱渡り人生にも、さまざまな対立構造にも辟易したすべての人々を、知性と優しさとユーモアの詰まったピンクのハッピーカラーでエンパワーする物語だ。

『バービー』
© 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
U-NEXTで配信中
https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/

#4 『ベネデッタ』

当時82歳(現在85歳)にしてまだまだパワフルなポール・ヴァーホーベン監督が、17世紀イタリアで、同性愛で告発された修道女ベネデッタ・カルリーニの裁判記録と実録小説『ルネサンス修道女物語―聖と性のミクロストリア―』を映画化。聖母マリアと対話し、奇蹟を起こす少女とされていたベネデッタは6歳で出家し修道院へ。純粋無垢なまま成人し、自らをイエスの花嫁と信じる彼女は、男性社会の権力闘争に勝ち抜く一方で、修道院に逃げ込んできた若い女性バルトロメアと親密になり、秘密裏に肉体的快楽を惜しみなく追求する。ヴィルジニー・エフィラ演じるベネデッタの矛盾と共存するしたたかさや屈しなさは、最低であっても高潔で最強で、観ているこちらにまで火照りと活力を与えてくれる。

『ベネデッタ』
© 2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA
U-NEXTで配信中
https://klockworx-v.com/benedetta/

小川知子

ライター

1982年、東京生まれ。上智大学比較文化学部卒業。雑誌を中心に、インタビュー、映画評の執筆、コラムの寄稿、翻訳など行う。共著に『みんなの恋愛映画100選』(オークラ出版)がある。
https://www.instagram.com/tomokes216
https://twitter.com/tometomato