2018年、スウェーデン在住のガラス作家・山野アンダーソン陽子氏の発案でスタートしたプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」。本プロジェクトは、写真家の三部正博氏とグラフィックデザイナーの須山悠里氏とともに、山野氏が作ったガラス器を18人の画家が静物画に描くというユニークな取り組みです。日本とスウェーデンの画家が参加し、彼らが山野氏にガラス器をそれぞれのイメージでオーダーし、そのガラスを画家たちが各々の作風で絵の中に描いています。
ガラスという素材を媒介に、山野氏とさまざまな文化的背景をもつ画家たちが、ことばとイメージを通じた対話を経て作品制作を行いました。9月に刊行された作品集『Glass Tableware in Still Life』では、山野氏によるガラス器と画家たちが描いた静物画を、三部氏が画家のアトリエで撮り下ろした写真で構成。透明なガラス器と静物画を、8×10の大判カメラでそれぞれの画家のアトリエで撮影され(ガラス器は白黒フィルム、静物画はカラーフィルム)、35mmカメラでは画家のアトリエの風景を白黒フィルムで写真に収められています。
さらに本書は、国内外の作家の展覧会カタログや作品集を多く手掛ける須山氏のデザインによって、表紙の印刷では、異なるインクを同時に流し込み、インク量、印圧を調節しながら刷っていくことで、モノクロームの中に流れるような風合いを携えた、静謐な本が完成しました。
彼女は招聘したアーティストたちに、それぞれのイマジネーションを通してまだ存在しない静物のリアリティを呼び起こす機会を与えている。私はこれをある種の魔法だと解釈している。現実と私たちの体感の間にカメラのレンズを介入させることへの執着が見られる現代において、存在を主張することが困難な静物画という芸術的実践に(文字通り)息を吹き込む魔法のようなものではないだろうか。 グンナル・ラーソン(寄稿文より)
本書の刊行を記念した展示が、鎌倉の「ink gallery」にての10月21日(土)〜10月29日(日)に開催されます。秋の鎌倉で静謐な作品たちに出会ってみるのはいかがでしょうか。
また、ガラス器と静物画、写真からなる本プロジェクトの展覧会「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」が11月より3か所の美術館にて巡回開催されます。
「Glass Tableware in Still Life」参加作家
石田淳一 Junichi Ishida
伊庭靖子 Yasuko Iba
小笠原美環 Miwa Ogasawara
木村彩子 Saiko Kimura
クサナギシンペイ Shinpei Kusanagi
小林且典 Katsunori Kobayashi
田幡浩一 Kouichi Tabata
八重樫ゆい Yui Yaegashi
アンナ・ビヤルゲル Anna Bjerger
アンナ・カムネー Anna Camner
イルヴァ・カールグレン Ylva Carlgren
イェンス・フェンゲ Jens Fänge
カール・ハムウド Carl Hammoud
CM・ルンドベリ CM Lundberg
ニクラス・ホルムグレン Niklas Holmgren
マリーア・ノルディン Maria Nordin
レベッカ・トレンス Rebecka Tollens
ほか
刊行記念展示
2023年10月21日〜10月29日
ink gallery(鎌倉)
ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」展
2023年11月3日〜2024年1月8日 広島市現代美術館
2024年1月17日〜3月24日 東京オペラシティ アートギャラリー
2024年7月13日〜9月23日(予定) 熊本市現代美術館
作品集
『Glass Tableware in Still Life』
仕様:270 x 220 mm/上製本/128P
ガラス:山野アンダーソン陽子
写真:三部正博
デザイン:須山悠里
執筆:グンナル・ラーソン
言語:日本語/英語
定価:9,000円+税
発行:torch press
https://www.torchpress.net/product/5530/
1978年、日本生まれ。現在スウェーデンのストックホルムを拠点に活動するガラス作家。日本の大学を卒業後、北欧最古のガラス工場であるコスタ内の学校で吹きガラスの手法を学ぶ。その後、スウェーデンの国立美術工芸デザイン大学で修士課程を修了。在学中は同国を代表するデザイナー、インゲヤード・ローマンにその美学を学び、〈マーガレット・ハウエル〉をはじめ、スウェーデン、イギリス、日本などで作品を展開する。
http://www.yokoyamano.com/