『花椿』2023年号の表紙および巻頭特集「dance? #dance DANCE!」を撮影してくださったのは、2人組のフォトグラファーユニット、トキの佐伯さんと眞鍋さん。穏やかでユーモアあふれるおふたりに、今回の撮影について、そして“トキ”を形作るエナジーについて聞いてみました。
エナジーをぶつけ合った、『花椿』の撮影。
――花椿2023年号のテーマ「OUR ENERGY」を聞いて、まずどのようなことをイメージされましたか?
佐伯:コロナが落ち着き、日常を取り戻しはじめた今、自分の中に湧き上がってくる前向きな気持ちを「OUR ENERGY」という言葉にしてもらえた、って感じでした。コロナ禍も終わりかけになって、音楽もアップテンポなものを聴くようになっていたんですけど、「あっ確かにこれ、エナジーやわ」って。僕だけが感じてたんじゃなくて、みんな感じているからこのテーマのことばにたどり着いたんだなと腑に落ちました。
眞鍋:
私は、丸い細胞同士がぶつかり合って、バチバチと全方位に光を放っている抽象的なイメージが最初に浮かびました。
――まさに今回の特集は、たくさんのダンサーが激しくバチバチと踊り合うことで新しいエナジーが誕生するような、そんな刺激的な撮影現場でしたよね。撮影全体を通して意識していたことはありますか?
眞鍋:
躍動感、熱い熱量、美しさ、あとは色です。スタイリストの高野さんの提案もあり、見る人も心躍るような色を入れることを意識していました。
佐伯:
踊り手に負けないエナジーを僕らも出そうと思って、特に公園の撮影地では僕も大声を出してました。中途半端になるとダメやなと思って、ぐっと面白い写真にするためには、僕らから発するなにかがないと、と思っていました。
――佐伯さんはダンサーの方々に向かってカメラを構えながら「エナジー!!」と大声で叫んでいましたね(笑)おふたりの気合と遊び心が反映された特集ができあがったと思います。
エナジーは、2人が前進するために必要なもの。
――それぞれにとって「エナジー」とは、どのようなものですか?
佐伯:
ネガティブになって落ちこみ続けていくと、突然「まっ、いっか!」となる瞬間がやって来るんですけど、そのときにエナジーが湧いてきます。自己否定が続いて下に落ち続けていった先に、パッと「まぁもうええわ、これで!」みたいな肯定が生まれて、羽が生えたように上昇して動きだすことが結構あるんです。これが僕にとってのエナジーかもしれません。ただの浮き沈みが激しい人かもしれませんが(笑)
――きっと、佐伯さんが次のフェーズに進化していくときに必要な過程なんですね。眞鍋さんは?
眞鍋:
エナジーの意味を調べてみたら、“物事を達成するための活力”と出てきて。なんだろうって考えると「欲望」かな、と思いました。私は欲張りで、自分が納得できないと気が済まないというか、やりたいことに対して諦めが悪い性格で。1人で写真をやっていたときは撮りたいものがあれば自分でアポを取ったりしていたので、写真に対してはその欲望は一層強いかもしれません。
佐伯:
誰かを撮りたい、この被写体を撮りたいっていう欲求が眞鍋は強いので、それが叶って撮影が実現することも多いんですよ。トキとしての原動力になってます。トキのエナジー=眞鍋の欲望、かも(笑)
――やりたいことを諦めずにふたりで実行し、実現していくのはとてもエネルギッシュですね。
2人で作品を作り続けるために
――今回の撮影で、2人組だからこそできたことはありましたか?
佐伯:
普段はカメラ1台を交互に使ってそれぞれの目線が混ざった写真を目指していますが、今回はダンサーたちのその瞬間の動きを撮り逃さないために、カメラ2台で臨みました。いろんな方向から捉えられて面白かったですし、ふたりでやっていて良かったなとあらためて感じましたね。
――2人の役割分担はありましたか?
眞鍋:
うーん、あんまりないですね。トキを始めた最初の方は、どっちがこの写真を撮ったっていうのがわかってたんですが、最近は段々とわからなくなってきて。今回の写真も、どっちが撮った写真かもうわからないです。
――活動しているうちに2人の視点が「トキ」として融合してきたのですね。
佐伯:
撮影が終わってからのセレクトは、お互いの意見をぶつけ合ってじっくり選んだので、そこが2人組の良いところでもあるし、苦労した点でもあります。ケンカもよくしました。
ケンカする方が良い写真が生まれるような気がします。お互いに意見を言い合って、だけどどっかで妥協点を見つけて、ひとつに集約させていく、というのがトキのいつもの感じです。眞鍋の欲求と、僕のわがままをお互いに全力でぶつけ合って、最終的な写真にたどり着いています。
眞鍋:
お互いが思っていることを聞いて「うん、確かにそれはわかる」と認めながらも、折れたくない、みたいな。そこに折り合いをつけていきます。毎回めっちゃ難しいです。
佐伯:
自分が思っていたことや決めていたこと以外のことを言われるのって、意外とエナジーが生まれると思ってます。たとえば撮影当日にライティングを組んでもう仕上がるってときに、「この表現はなんかちゃうわ。変えよ」って、「今言う!?」みたいな突拍子もないことを眞鍋が言ってきたりするんですよ。そのときは乱されて、イラッ!!とするんですけど、結果それで新しく面白い作品が生まれたりするんですよね。
――自分と異なる考えを受け入れる。佐伯さんと眞鍋さんはそれぞれの思いを日常的にぶつけ合っているからこそ、ふたりで1つの新しいエナジーに昇華させているということがよくわかりました。
――最後に、おふたりが今後めざしていきたい姿を教えてください。
眞鍋:
トキでずっと写真を続けたいです。
佐伯:
僕も、死ぬまで続けるってことです。続けることが1番難しいと思っているので、これからも諦めることなく、自分たちが面白いと思う表現を追い続けていきたいと思います。
「dance? #dance DANCE!」は、『花椿』2023年号「OUR ENERGY」に掲載されています。
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