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Column

2023.07.30

踊って、わたしは強くなる。ダンスにこめられたエナジーとは。

SNSや動画で、誰かがダンスしているようすを見る機会もすっかり多くなりました。ジャンルに限らず人が踊る姿というのはエナジーに溢れ、なにかことばにならないメッセージが伝わってくるようで、こちらまで元気をもらえます。「身体でなにかを伝える」とは一体どういうことなのか、そしてその人たちにはどんな世界が見えているのでしょうか。2023年7月19日に行われた、『花椿』刊行記念映画『裸足になって』試写会&トークイベントで、ダンサーで映画監督でもある吉開菜央さんと、資生堂ファッションディレクターの呉佳子さんが映画と身体表現の魅力に迫りました。

「裸足になって」は北アフリカのイスラム国家アルジェリアを舞台に、夢と声を奪われたダンサーの少女フーリアが、踊ることを通じて生きる希望を取り戻していく映画です。
主人公とこの映画における踊りとは?主人公と同じくダンサーである吉開さんにとって、どのように見えていたのでしょうか。

吉開さんが語ったのは、踊りが作り出す、「自分以外の存在との繋がりの力」でした。
映画の中で主人公フーリアは、最初はひとりの世界で踊っていましたが、だんだんと人に向けて、海に向けて…外に向かってひらいて踊っていくようになります。声に代わるコミュニケーションの手段として、さらには生き延びる手段として、人と繋がっていきます。傷つくたびに、本当の意味で踊るようになっていくフーリアの姿が象徴的でした。

「主人公に限らず誰しも、ひとりで踊ることはできないと思います。」と吉開さん。誰かと一緒に踊る、複数人で踊るという意味に限らず、なにか自然でも空間でもいいから、ひとりではなく何か他の存在を感じながらでないと、自由に踊るって難しい。日頃から身体表現に向き合う吉開さんも、主人公フーリアと自分を重ね合わせます。

吉開さんにとって踊りとはなんですか。呉さんの質問に吉開さんは、「自分以外の別のものを、自分の体で理解しようとするプロセス」であると答えます。その際に体の中におこる変化が踊りとなって表れ、それが自分を動かすエナジーとなっている、とも。
「言葉では嘘をつけてしまいますが、身体の動かし方からは、その人の本当の気持ちがわかります。人だけじゃなく、物質からでも、その存在が発するムードを感じとることができますし、そのエナジーを交換しあうことで元気になっていくということもあります。本当のやり取りができる感じ。」ダンスをあまりしたことのない人からしたら不思議な感覚ですが、身体で表現する、というのは言語を超えた本当のコミュニケーションであるということを再認識します。

ダンスで自身の内なるエナジーを発揮するということは、自分と自分以外の存在を繋げていく行為なのかもしれません。

呉さんが専門とするファッションの業界でも、身体感覚というのは近年のひとつの潮流だそうです。ショーのランウェイに添えられてコンテンポラリーダンスを目にする機会や、身体を感じさせるボディコンシャスなデザインも増えたそう。ファッションデザイナーは人々が求めている気持ちや世の中のムードを洋服やショーに反映させますが、身体によるコミュニケーションは、最近の流行なのでしょうか。
米津玄師さんの「Lemon」のミュージックビデオにも出演されていた吉開さんですが、ダンスの視点でも、近年はミュージックビデオと踊りが最初からセットで作られることから、歌詞に合わせた、ある種の身体言語のようなダンスとなる傾向が強いといいます。
自分の気持ちを伝えるための手段のひとつとして、世の中全体的に、自由な身体表現への期待が高まっているということに気づかされたトークイベントでした。

トークイベントのようす。左:吉開菜央さん。 右:呉佳子さん。

花椿23年号のテーマは「OUR ENERGY」。吉開さんも出演する巻頭特集「dance? #dance DANCE!」でも、複数のダンサーによるエナジーの身体表現を切り取っています。一見すると、ダンスといっていいのかわからない動きの数々。ですがきちんとポーズを決めていなくたって、上手に踊っていなくたっていいんです。内なる自分のエナジーを、自分らしい形で素直に解放してみませんか。SNSにおける#(ハッシュタグ)ミームのように、どんどん他者と繋がっていけるダンスの可能性を、ぜひ感じてみてください。

『花椿』2023年号(No.831)「OUR ENERGY」
詳細はこちらから。

『裸足になって』

製作総指揮:トロイ・コッツァー 『コーダ あいのうた』
監督: ムニア・メドゥール
出演: リナ・クードリ、ラシダ・ブラクニ、ナディア・カシ
配給:ギャガ 原題:HOURIA/99分/フランス・アルジェリア/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:丸山 垂穂
©THE INK CONNECTION - HIGH SEA - CIRTA FILMS - SCOPE PICTURES FRANCE 2 CINÉMA - LES PRODUCTIONS DU CH'TIHI - SAME PLAYER, SOLAR ENTERTAINMENT
公式H P:https:// gaga.ne.jp/hadashi0721

公開中!

【登壇者プロフィール】
■吉開菜央(よしがい・なお)
1987年山口生まれ。日本女子体育大学舞踊学専攻でダンスを学んだのち、東京藝術大学大学院映像研究科に進む。生き物ならではの身体的な感覚・現象を素材に、「見て,聴く」ことに集中する時間を映像として編集している。2015年に監督した映画『ほったまるびより』が文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞を受賞。『みづくろい』YCAM架空の映画音楽のための映像コンペティション優秀賞受賞(2013年 YCAM)。21年、北海道知床半島斜里町の人々の現実の生活や心根を描き出した映画『Shari』が、第51回ロッテルダム国際映画祭の短・中編部門に公式選出された。
https://naoyoshigai.com/

■呉佳子(ご・よしこ)
資生堂ファッションディレクター
東京都出身。一橋大学商学部、ロンドン芸術大学LCFファッションジャーナリズム修士課程修了。2012年に資生堂入社後、現職に就任し、ファッショントレンド研究を担当する。デザイナーズコレクションをはじめ国内外の最新トレンドの分析により、ファッションのウラに潜む新しい時代の流れ/ムードを読み解き、分かりやすく解説する。新聞やモード誌への寄稿、セミナーでの講師経験多数。花椿オンラインでコラム「Heart of Fashion」「Collection」を連載中。