目にした光景にふと湧きあがった感情、日々の小さな喜びやモヤモヤ、強く心を動かされた経験は誰にでもあるはず。その瞬間の心の声を、詩で紡いでみませんか。
感じたことを自分のことばで、声に出す・書き留める・キーボードで文字を打つ。このように運動神経を少しでも使った記憶は、ただ頭の中で思い浮かべているだけよりもずっと強く自分の中に刻まれていきます。文字という目に見える形にすることによって、そのときに見た風景や感じた感情は、決して忘れられない大切な宝物となっていくはずです。
「今月の詩」の第3期選考委員の一人は、ミュージシャンでラッパーの環ROYさんです。環さんには、「花椿」2017年秋号#816「美とリズム」にて、コンクリート・ポエトリーの手法を用いた「はらり」という詩を寄稿いただきました。ラップのリリックを作るときは、視覚だけでなく聴覚からのイメージも踏まえてことばを生み出していく必要があるといいます。環ROYさんがことばを作るときのポイントをお聞きしました。
現在、「今月の詩」の公募期間中です。
この機会にぜひ、あなたの感じたことを送ってください。
「詩をさがしています。」 応募要項
ー「今月の詩」の第3期選考委員に就任されましたが、環ROYさんの「詩を読むポイント」を教えてください。
詩=ことばが系(けい)となった構造体。この定義が、実は決めつけなのかもしれない。と最近ぼんやり考えていました。いきなり急進的な話になってしまいますが、舞踊でも音楽でも絵画でも映像でも、ポエジーだね。リリカルだね。と言ったりすることがあります。だから詩の定義を少し離れたところから眺めてみたい。その地点から詩を感じてみたいと考えています。もっというと応募の形式も自由でいいのでは?と思っています。
ーことばの力に可能性を感じて、リリックや詩を作るのが楽しくなったと感じるようになったきっかけは何でしたか?
ラップの作詞をはじめたときから楽しかった、だから現在まで続いているのだと思います。ことばの力に可能性を感じたというより、ことばしかなかったというか、ことばと声が一番身近な道具だったから、というのが所感です。好きか嫌いかでいうと、ことばが好きなタイプの人間だと思います。
ーリリックや詩を作る際に、ご自身が意識していることを教えてください。
テーマや起承転結などの構造を先にデザインして、ことばを建材のように扱って構築する方法をちょっと前までは多用していました。最近は音声(ことば)の録音からスタートするようになりました。音声を繋いで、ある程度の系が産まれたら、それを文字に起こして詞のような構造体を立ち上げる。文字→音声から、音声→文字というプロセスの変化が、制作をより身軽にしたような感覚があります。とはいえ、どんな方法も一長一短ですので、適宜、使い分けていけたらと考えています。
ーテーマやタイトルはどのように決めていますか?
タイトルはほとんどの場合最後につけています。テーマはその時に関心のあること。といっても前述のとおり、音声の録音が起点の場合、テーマを事後的に自らで見出すことになります。「自分はこういうことを考えていたのか」というような気づきが主観的な興に繋がっています。
ーうまく書けない、ことばが思いつかない…… スランプ状態に陥ったらどうしていますか?
本棚から適当に本をとって、興が乗ることばを探す。ということはよくあります。音声の録音からスタートする場合はそのような状態に陥りづらいと感じます。むしろ、スランプ状態に陥らず新鮮な制作を継続するために、音声の録音からスタートすることが増えました。最初に出たことばの成り行きに任せて、構えず気軽に取り組んでいます。
ー創作活動にあたって日頃のインプットはどのように、どこで行っていますか?
Youtubeを見たり、音楽を聴いたり、人文科学が好きなので関連書籍を読んだり、アートを見に行ったりなど、ほとんどが日常生活からのインプットです。最近は本谷有希子さんと仕事でご一緒したので、小説を読むことが増えました。これまで小説はあまり読んでこなかったので新鮮な気持ちで読んでいます。色々な小説を読んでみたいという意欲も湧いてきました。
ーこれから詩を書く人に一言お願いします。
あなたが作る詩に対する他者の印象や感想はコントロールできません。なので、自分が楽しめて、自分がよいと思うことだけを追求していけばよいのではないでしょうか。正解は存在しないので、正解を求めない姿勢を保ち続けていけばよいはずです。自戒の念もこめて。
おすすめの本
『世界の調律 サウンドスケープとはなにか』R.マリー・シェーファー(思潮社・現代詩文庫)
『石原吉郎詩文集』石原吉郎(講談社文芸文庫)
『ディスタンクシオン』ピエール・ブルデュー(NHK100分de名著)
『あなたの人生の物語』テッド・チャン(ハヤカワ文庫SF)
『午後の曳航』三島由紀夫(新潮文庫)
『カナダ=エスキモー』本多勝一(朝日文庫)
『利己的な遺伝子』リチャード・ドーキンス(紀伊國屋書店)
『銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイアモンド(草思社文庫)
『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ(河出書房新社)