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Column

2022.09.07

あなたと化粧品の物語 第1回

7月から8月にかけてウェブ花椿で募集した「あなたと化粧品の物語」。
多くの方にご応募いただき、多くの「物語」に出会うことができました。

今日から少しずつ、みなさんの「物語」をお送りします。

第1回はコバヤシヒロコさんの「物語」。
コバヤシさんの幼少期の思い出と、いまにつながる物語とは…

 

 

私を観る私。
私の横顔を観る私。
私の後ろ姿を観る私。 
何処かの私を観る私。 
色んなところを観る私を隅々まで観る私。 
もしかしたら私じゃない誰かが居ないかと観る私。 

母の三面鏡の化粧台。幼い私には無限に広がる異空間に万華鏡とそのときに香る化粧品を覚えた。 
誰に教えてもらう訳でもなく。いや、いつも母のその様子を傍で観ていた私。化粧をすることを覚えたのはその頃であろう。
そして三面鏡の化粧台の引き出しの中から迷いなく取り出したのはもちろん「口紅」。 
まわりを窺い、初めて自ずから点した口紅。 
そしてまた万華鏡の中に入る私。 
綺麗な色のガラス瓶が並ぶ。南の窓からは程よい日が射し、それらが乱反射して幼い私の唇と共に輝いていた。すべて化粧品というより素敵な宝物のようであった。
3つ年下の妹に邪魔をされないように三面鏡の万華鏡で幼いながらも想いをめぐらせ自分の世界に入るのが好きで好きでたまらなかった。 
そしてすべての宝物にあった「花椿」の模様が今も鮮明に若かった母と共によみがえる。 
花椿模様も大人の印象が私の中にあって大好きで「おませさん」だったのかもしれない。 

そんな三面鏡も母も想い出となった今の私は花椿の口紅を堂々と引く私を観ている。

テキスト/コバヤシヒロコ
写真/伊藤明日香