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Column

2016.12.28

好奇心に従う

文/大神 崇

写真家の石川直樹さんにとって初となる大規模個展「この星の光の地図を写す」が水戸芸術館で開催中です。22歳で北極点から南極点までを人力で踏破、23歳で7大陸の最高峰の登頂に成功、といった経歴を持つ彼ですが、この展覧会では、これまでの旅の軌跡をK2といったヒマラヤの山や北極圏といった極地を撮影した写真から、人類学、民俗学からアプローチした世界各地の洞窟壁画や日本列島、ポリネシアの島々へのフィールドワーク活動における作品まで展示されており、多岐に渡る彼の活動を知ることができます。また、セクションごとに写真と一緒に展示されているテキストが、作品をより深く理解する上で大切な役割を果たしています。

シリーズ「K2」(2015)より

石川さんとは、「The Seven Continents」というレクチャーシリーズで、2011年の2回目のエベレスト登頂の後からご一緒しているのですが、長期遠征からの帰国直後に会うと、毎回蝉の抜け殻のような姿で現れ、言葉だけでは伝わらない旅の過酷さを感じさせられます(時には命の危険も伴っているので、当たり前なのですが)。それでもイベントになると、8,000メートルを超える山での出来事をまるで近所の山のように話すので、聞いているこちらもつい自分も行けるのではないか? という気分にさせられてしまい、そのギャップが彼の魅力の一つなのだと思います。

シリーズ「ARCHIPELAGO」(2009)より
シリーズ「ARCHIPELAGO」(2009)より
シリーズ「NEW DIMENSION」(2007)より
シリーズ「POLAR」(2007)より

石川さん曰く、旅を続ける原動力は「好奇心」とのこと。そのシンプルな原動力が、今も変わらず彼を突き動かしています。私たちの日々の生活においても、年齢を重ねるにつれて、好奇心に従って動くこと、もしくは好奇心を持つこと自体が難しくなっているかもしれません(最近だとインターネットによって安易に情報を収集しやすくなっていることも要因の一つだと考えられます)。この展覧会を通して、改めて好奇心を持ち続けることの大切さを学ぶことができると思います。次はどんな新しい世界を見せてもらえるのか、今後の彼の活動が楽しみです。

COVER PHOTO : シリーズ「POLAR」(2007)より

シリーズ「K2」(2015)より

大神 崇

ライター/編集者

1984年大阪生まれ。フットボールカルチャーマガジン「SHUKYU Magazine」編集長。原宿のオルタナティブスペースVACANT創設メンバー。企画・編集・執筆など、カルチャーからスポーツまで、ジャンルにとらわれず幅広い活動をしている。
http://takashiogami.com/