次の記事 前の記事

Column

2016.12.14

佐藤 翠「Eternal Moment」

文/花椿編集室

南青山にこの秋、新しくオープンしたアートサロンSCÈNEで佐藤翠さんの絵画展が開かれている(協力:小山登美夫ギャラリー)。このギャラリーは会場内に段差があったり、豪華な応接セットが置かれていたりとかなり個性の強い空間なのだが、佐藤さんの作品は見事に調和していて、むしろインスタレーションの一部として応接セットを置いたのではないかと思えるくらい、しっくりと会場にとけ込んでいた。

これは彼女の作品の特質といっていいだろう。いわゆるホワイトキューブ、美術作品を展示するための専用空間でなければ成り立たないような偏狭さが全くなく、どんな場所にもすっととけ込める親和性を持っている。しかしそれは作品としての主張が弱いからではないのか、洋服のクローゼットやハンドバッグやハイヒールなど、女性が好むきらびやかなものをモチーフにしているからではないのかと、ハードコアな現代美術フリークは反論するかもしれない。

確かに佐藤さんの描くモチーフは万人受けしやすい。しかしつぶさに見てみれば、筆触が抽象表現主義のそれを髣髴させる、荒くて猛々しいものであることに気づくだろう。第一印象だけで判断すると、本質を見誤ることになる。万人受けする佇まいを見せながら、実は可憐さと荒々しさという互いに相反する感覚が共存している、ここが佐藤作品の一番の魅力なのだ。そしてそれが-かつて評したことがあるのだけれど-豊かな官能性を生み出す源となっているのだと思う。

さらにもうひとつ。ちょっと手前味噌になってしまうが、2015年の資生堂ギャラリーでのグループ展を契機として、佐藤さんは鏡を支持体とする作品をつくりはじめた。これがまたいいのだ。絵の具が全く染み込まないため、描かれたモチーフが画面に定着せず空中に浮かんでいるような不安定さが生じ、余白部分の鏡に映りこむ鑑賞者の姿や会場風景と相まって、迷宮に迷い込んだような幻視感に襲われる。これは佐藤さんが手に入れた、新しい絵画世界といっていいだろう。

佐藤さんの筆触は、写真や印刷物ではつぶれてしまって十分に味わうことができない。ぜひ会場で実作を堪能してほしい。ただしアポイントメント制なので、事前の連絡をお忘れなきよう。

アートサロンSCÈNE :http://scenetokyo.com/schedule/

予約はこちらから ⇒ info@scenetokyo.com

(花椿編集長 樋口昌樹)