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Column

2016.11.21

古典文学をリブランディングする試み — The Happy Reader

文/古屋 秀恭

「いま一番好きな紙媒体は?」と聞かれたら、『The Happy Reader』と答えるようにしています。古典的良書を刊行することで知られるイギリスの出版社ペンギンブックスのブランド「Penguin Classics」と、メンズファッション誌の代表格『Fantastic Man』とのコラボレーションによって誕生した雑誌です。

初めてその存在を知ったのは去年。紀伊国屋新宿南店の洋書フロアにエスカレーターで上がって、目の前にある新書コーナーにキム・ゴードンが表紙を飾る『The Happy Reader』の2号目が置いてあり、思わず手にとってそのまま購入したのが出会いでした。ラグジュアリー感があり、ビジュアルがすごく良い。オブジェのような印刷物で、ペンギンもこういうものを出しているんだと思い、クレジット欄を見てみたら、『Fantastic Man』を手がけるヨップ・ヴァン・ベネコムとゲルト・ユンカースの名前があってすごく納得しました。『The Financial Times』『The Guardian』『Fantastic Man』『The Gentlewoman』『The Times』などで活躍するセブ・エミナも編集長として参加していて、注目です。

ISSUE no.2 Kim Gordon
ISSUE no.6 Ethan Hawke
ISSUE no.7 Hans Ulrich Obrist
ISSUE no.8 Kristin Scott Thomas

ヨップとゲルトの雑誌作りの手法を古典文学に当てはめたらどのようになるか。この問いかけからスタートした『The Happy Reader』のコンセプトはとてもシンプル。前半は本好きの著名人インタビュー、後半は古典文学をファッション・アート・ライフスタイルなどといった切り口で取り上げる2部構成になっています。デザインは毎号異なり、唯一変わらないのは全体のページ数だけ (いつも64ページ)。

最新号の8号でインタビューを受け表紙に登場するのは、英国を代表する女優で、2003年に大英帝国勲章(DBE)を授与されたクリスティン・スコット・トーマス。7号にはロンドンのサーペンタイン・ギャラリーでアーティスティックディレクターを務め、世界的に著名なキュレーターであるハンス・ウルリッヒ・オブリスト。6号ではイーサン・ホークが登場しています。優れたビジュアルとエンターテインメントの要素に後押しされながら古典文学を楽しめ、ついでに英語の勉強もできる。個人的にいま一番おすすめの雑誌です。

古屋 秀恭

ライター/編集者/翻訳者

「The Fashion Post」元編集長。現在はフリーランス(Northern Projects)。ロンドン大学SOAS政治学部卒。翻訳(日英・英日)の専門分野はファッション、カルチャー、アート、そしてIT。
http://www.northern-projects.com