「目 In Beppu」を企画したのは、別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」実行委員会だ。市民主導による3年に1回の芸術祭「混浴温泉世界」の開催(2009、12、15年)を中核事業として、市民文化祭「ベップ・アート・マンス」の開催(2010年より毎年)など、文化芸術の振興事業を行っている。その事務局を担う、アーティストの山出淳也が率いるNPO法人「BEPPU PROJECT」は、2005年の発足以来、アーティストの居住制作の場「清島アパート」の運営や、展覧会やアートイベントの開催などによる、日常にアートを根付かせるための多岐にわたる活動を展開し、「国東半島芸術祭」(2014年)、「おおいたトイレンナーレ」(2015年)などのディレクションも手がけてきた。
「目 In Beppu」は「混浴温泉世界」の後継企画として、今年度からスタートしたプログラムだ。「混浴温泉世界」が毎回数十組のアーティストを招聘する、いわゆるフェスティバル型のプログラムでトリエンナーレ方式(3年に一度の開催)であったのに対し、「In Beppu」は個展形式で、今後毎年開催していく予定だという。大きく方向性を改めたわけだが、その狙いは何なのだろうか。そしてなぜ市役所なのか?「BEPPU PROJECT」代表で「In Beppu」の総合プロデューサーの山出さんにお話を伺ってきた。
芸術祭の開催には多額の費用とマンパワーが必要だ。それらの資源を何十組ものアーティストに広く薄く使うよりも、一組の作家に集中して投下し、その作家の代表作として語り継がれる作品をつくってもらったほうが、プロジェクトの可能性が広がり、関わった人々の記憶に深く刻まれる。その記憶に残る点を重要視して、山出さんはフェスティバル型から個展形式へと舵を切ったのだという。
そして市役所は市民の生活に深く関わっている。住民登録や出生・死亡届の提出など、一生のうちに何度かは必ず足を運ぶ場所だ。そこが展覧会場になることは、「In Beppu」が別府市民のための催しであることの宣言である。市長も極めて乗り気で、実は準備段階で法的・技術的な側面から計画変更を余儀なくされたことがあったらしいのだが、会場の変更だけはしないで欲しいと要請されたそうだ。まさに官民一体となって取り組んでいることを示すエピソードである。
「In Beppu」は今後5年間、個展形式を踏襲しつつ、場所は毎回変えて継続する予定だ。さらに次の段階では、出品作家を指名ではなく、公募に切り替えたいという。そして審査員に市民を起用したいとも。その段階まで進めば、「In Beppu」はまさに市民の手で運営されるプログラムとなる。そうなれば「BEPPU PROJECT」は解散してもいいと山出さんは語っていた。ゴールは自分たちの存在が必要なくなる地点。芸術祭の目的を市民の手による自主開催に置くのならば、これは究極のゴールラインではないだろうか。
目 In Beppu HP http://inbeppu.com/
(花椿編集長 樋口昌樹)