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Column

2016.10.13

様々な世界の“見え方”

文/大神 崇

絵/大川 久志

4年に一度、オリンピックのあとに開催されるのがパラリンピック。今年は9月7日-18日にリオデジャネイロで開催されました。日本人選手は金メダルが取れず残念でしたが、全力で競技に取り組む選手たちの姿が観る人の心を揺さぶっていたことは間違いありません。次はいよいよ東京です。

パラリンピック競技の中でも気になるのが5人制サッカー(通称:ブラインドサッカー)。国内大会もよく開催されており、近年注目を集めています。フットサルとほぼ同じ大きさのコートの中で、選手は視覚がない状態でボールに入れられた鈴の音を頼りにプレイします。フィールドプレイヤーは全盲の選手で全員アイマスクを装着し、ゴールキーパーは晴眼者もしくは弱視者が務めます。私も実際にやってみたことがあるのですが、アイマスクを装着すると止まっているボールを蹴ることさえも大変。世界を代表するサッカー選手、リオネル・メッシも最近挑戦していましたが、あのメッシでさえも同じように苦戦している姿を見ると、いかに人が視覚を頼りに生活しているかがわかります(人間が得る情報の8-9割は視覚から得ていると言われています)。

視覚障がい者の世界の“見え方”を研究している伊藤亜紗さんによる著書「目の見えないアスリートの身体論」(潮出版)では、障がい者スポーツを感情論ではなく、“身体論”という文脈からアスリートへのインタビューを通して身体の可能性を探っています。以前、自身の雑誌で伊藤さんにブラインドサッカー日本代表選手へのインタビューをお願いしたことがあるのですが、アイマスクを装着し、視覚がない状態でどうやって空間を把握しているか、という話や、音を使ったフェイント、チームスポーツでは必須になる味方同士のコミュニケーション方法など、聞いていると目から鱗が落ちるような発見がたくさんあり、刺激的だったことを覚えています。本書では競泳や陸上競技の選手も登場しており、競技ごとに異なるアプローチ方法はとても興味深いです。

また、先日2010年のバンクーバーパラリンピック・アイススレッジホッケーの銅メダリストである上原大悟さんのお話を伺ったのですが、その中で障がい者スポーツは身体の一部を“使わない”スポーツというだけで、誰でもできるスポーツだという話がありました。そういう視点で考えると、障がい者スポーツの見方も変わるのではないでしょうか。

制限がある中で工夫しながら身体の新たな可能性を拡張していこうとする選手たちの探究心は、商業化の流れが加速するスポーツ業界の中で、改めて考えるべきスポーツの原点だと思います。この4年間でどんどん更新されていくスポーツの形を追いかけるのが楽しみです。

大神 崇

ライター/編集者

1984年大阪生まれ。フットボールカルチャーマガジン「SHUKYU Magazine」編集長。原宿のオルタナティブスペースVACANT創設メンバー。企画・編集・執筆など、カルチャーからスポーツまで、ジャンルにとらわれず幅広い活動をしている。
http://takashiogami.com/

大川 久志

イラストレーター

1984年生まれ。兵庫県出身、東京都在住。
http://hisashiokawa.com