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Column

2016.11.18

目 In Beppu

文/花椿編集室

「たよりない現実、この世界の在りか」

2014年 資生堂ギャラリー(photo:Ken Kato)
「おじさんの顔が空に浮かぶ日」

2014年 宇都宮美術館館外プロジェクト

荒神明香、南川憲二、増井宏文の三人を中心に、2013年に結成された芸術家集団【目】。デビュー以来、奇想天外な着想と驚異的な造形力とで、常に見るものの度肝を抜いてきた。そんな【目】の個展が、別府市の市役所で開かれている。

photo:Takashi Kubo

なぜ市役所で? これについては次回のレポートに譲るとして、今回はこの展覧会の見どころをご紹介したい。これまで【目】は、ホンモノそっくりのあり得ない現実をつくり出すことに注力してきたが、今回はリアルな現実に虚構の世界を接ぎ木することを試みた。日々、多くの市民が手続きに訪れ、職員が忙しく立ち働く市役所のどこかに、虚構の世界がそっと忍び込んでいるのだ。

photo:Takashi Kubo

何を言っているのかさっぱり分からない? すみません、詳しく述べるとネタバレになってしまい、これから見る人の興味を削いでしまうので、こんな曖昧な説明しかできないのです。どうかご容赦ください。

【目】の作品に対する鑑賞者の反応は様ざまだ。彼らの仕掛けに全く気付かず、今回で言えば単に市役所の中を見学したとしか思えず、「どこに作品があるんだ!」と怒り出す人もいれば、途中で気がついて表情が一変する人もある。あるいは私のように深読みしすぎてしまい、彼らの仕掛けではないものまで作品だと勘違いしてしまう人も出てくる(事実、後からメンバーにあれは元々あるものですよ、と指摘されてしまったのでした)。

【目】の作品の醍醐味はここにある。ひとたび仕掛けに気が付くと、他にもないかとあたりに目を凝らし、挙句の果てはありとあらゆるものが彼らの作品のように思えてきて、現実と虚構の区別がつかなくなってしまうのだ。この、うまく騙されている感覚がなんとも心地よい。ぜひ一度、体験してみてほしい(ただしネタばらしはしないこと!)。

photo:Takashi Kubo

でも最も幸せな体験の仕方は、【目】のことなど全く知らずに、何かの用事で市役所を訪れた際にふと、そこにある虚構の世界に気が付いてしまうことだろう。このときの衝撃は、計り知れないに違いない。残念ながらこのテキストを読んでしまった貴方には、もはや出来ない相談なのだけれど。

目 In Beppu HP    http://inbeppu.com/

(花椿編集長 樋口昌樹)