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インタビュー

2022.12.08

「マイ・ゼロ・ストーリー」 第8回 シャルロット・デュマ

好評をいただいている連載「マイ・ゼロ・ストーリー」。
花椿編集室がいま会いたい人にお会いして、その方の現在の活動の原点となった出来事や刺激を受けたこと、そして現在とこれからについてなど、たくさんのことをお聞きします。

第8回は、アーティストのシャルロット・デュマさん。
アムステルダムを拠点に活躍しているシャルロットさんは、動物を被写体とした写真作品の数々で知られ、近年では映像やインスタレーションなどに表現の幅を広げ、世界各国の美術館で個展を開催するなど、オランダを代表するアーティストとして知られています。2023年春、東京での展覧会を控えたシャルロットさんにご自身のルーツやこれからの挑戦について伺いました。

作品制作を通して気づいた、

動物を見つめることは、人間を見つめること。

 オランダ出身のシャルロットさんは、8歳の頃、アーティストだった両親からの贈り物として初めて自分のカメラを手にする。「小さな赤いボタンがついたペンタックスを手にした喜びをまだはっきり覚えています。そのカメラを持って、道ですれ違う散歩中の犬を撮影するのが好きでした」と、現在の作品に通じる被写体を早くも幼少時に見つけていたことを明かしてくれた。アートに囲まれて育ったシャルロットさん、とりわけ画家であったお父さんには大きな影響を受けたと語る。
「父にはよく観察することの大切さを教わりました。2016年から制作は主にデジタルカメラを使用してきましたが、最近またフィルムカメラで撮影しています。今回の滞在には父が私が生まれた頃に使っていたオリンパスのカメラを持ってきました。現在父は療養中なのですが、私が生まれた当時に彼が撮影していたスライドを先日全て見たんです。画家だった父が、自然や動物を被写体とした写真も驚くほど上手だったと知りました。私自身の記憶ではないにもかかわらず、父の撮影したイメージを通して幼い頃の記憶を取り戻しているような不思議な体験でした」

 そんな幼少期を過ごしたシャルロットさんは、自然な流れとして大学で写真を学ぶことを決意。「写真をやっていきたいということに迷いはありませんでした。その頃から動物を被写体としたプロジェクトに取り組んでいて、先生には他の題材も探しなさいと言われたりもしたけれど、言うことを聞かず(笑)、結局卒業制作でも警察犬をテーマにしたプロジェクトを提出しました」
 その後進学したライクスアカデミー(大学院)でも犬を撮影するプロジェクトに取り組むなど、この頃には動物はシャルロットさんにとって揺るがない、パーソナルな被写体となっていた。「動物は神話に登場したり神格化されることもあれば、労働力など実用として使われてきた事実もある。歴史の中で変化する関係性も含めて、動物を見つめることは、人間を見つめることなのだと思っています。特に今人間はとても難しい時期を迎えています。自分たちがひとつの種であることを自覚し、他の種に対する態度を見つめ直すとき。ニューエコロジーなどさまざまな自然との関係を見つめ直すコンセプトが叫ばれていますが、私はただの観賞者でいたくない。山を見つめるよりも登りたい、その一部になりたいんです。それがひいては自分たち自身をどのように扱うかということにつながっていると思います」

 大学で10〜20代の学生を教えるシャルロットさんは、自分たちが若かった頃との大きな違いも感じると言う。
「SNSがなかった自分の学生時代と比較すると、今の学生は興味があるものを探したりそこに向かっていくスキルはすでに獲得している気がします。その分、周りとの距離感や、自分を表現する境界を規定することにすごく敏感です。発言や行動の自由がある今だからこそ、やりすぎになっていないかと過敏になり、自らを抑えがち。他者を傷つけまいとする優しさもとても感じます。でも抑えてばかりだと疲れてしまいますよね。境界を越えないと何も起こらない。自分で自分を解放することがとても大切です。子供や動物を見ていると、本能的に自分にとって適度なスペースを熟知している。それには自分と他者への根本的な信頼が見られます。自然に近い状態では、もともと人間はそうなんですよね。だから誰しももっと自分を信じて境界を越えていく勇気を持つことができたらいいなと思っています」

 2014年からは日本を題材に作品制作を続けているシャルロットさん。絶滅危惧種の希少馬を撮影するプロジェクトから始まり、与那国島や沖縄を舞台に映像作品に取り組んだりと、制作はここ数年間でさらに発展し続けている。
「そうなることは全く予期していなかったんです。ヨーロッパでの制作スタイルは、一人で主題を決めて計画を立て、撮影する、仕上げる、ある意味それを積み重ねていくものです。でも日本にいると不思議と作品そのものが生き物のように変化するんです。さまざまなクリエイティブな出会いがあり、コラボレーションが生まれ、自分の作品でありながら他の人の表現も入ってくる。不思議な流動性が生まれてくるんです」テキスタイル・アーティストのKittaなど他の作家とのコラボレーションも多い。
「一人でやることに囚われすぎない、集合的に作品を捉えるというやりかたは自分の中にもあった解なんだと思います。最初はそのオーガニックな状況に圧倒されてしまって、どうしようと思ったけど、今はそのやりかたが一番現在の自分に合っていると思う。今回も、新しいプロジェクトのリサーチのためにオランダで下準備をいろいろしてきたのですが、ここにくると連鎖的にいろんなことが起こって思いもよらない方向に進むんです。でもそれが大切で、被写体や対象そのものに意味があるのではなく、アプローチをつなぎ合わせていくことが大事なんです。ゴールだけを目指していた若い頃の自分と比較すると、今は必ずしもそれが目標ではなく、むしろ過程の方が重要、と感じるようになってきました」

 2023年3月には、東京の小山登美夫ギャラリーで個展が開催予定。2018年から制作を続けていた映像3部作の完結編が日本で初公開される。現在は象をテーマとした新しいプロジェクトのリサーチ段階で、かつて象がアジアから西洋に移動した歴史を軸に、映像や写真などさまざまなエレメントを取り組んだ作品の準備をしているそう。「まだ最終形は見えていないのですが、アートプロジェクトをしているときは、制作作業が具体的になり始める前の混沌とした時期が一番楽しいし、始まりのワクワク感に満ちているんです」と語ってくれた。

花椿編集室からのQuestionに、シャルロット・デュマさんが答えてくれました

Q . 子供のころの夢は?

獣医か、犬小屋を持ちたかった。どんなときでも動物と過ごしていたかった。ある意味で、それが現実になったかも。

Q . 落ち込んでいる人に声をかけるとしたら?

ただその人のためにそこにいて、話を聞くか、黙っているかする。とても傷ついて、苦しい時間を過ごしていることを教えてあげる。

Q . いま、行ってみたい場所は?

小津和紙。紙が好きで、いつも何かを探しにいくところ。すばらしい場所です。

Q . 「美」ということばからイメージすることとは?

愛、友情、他者との繋がりを経験する瞬間に生まれるものが、美。
こんな瞬間をフィルムに納め、その瞬間が去った後も見つめ、時を超えて生き返らせる。それがとても私にとって大切なことです。

Charlotte Dumas/シャルロット・デュマ
1977年、オランダ、フラールディンゲン生まれ。2000年にヘリット・リートフェルト・アカデミーを卒業後、ライクスアカデミーで学ぶ。20年以上にわたり、現代社会における動物と人間の関係性を作品化してきた。2014年より日本全国の在来馬を撮影するプロジェクトに携わり、北海道、長野、宮崎、与那国島などを巡って撮影。近年では、映像作品も手がける。主な個展に、「Anima and The Widest Prairies」(フォトグラファーズ・ギャラリー、ロンドン、2015年)、「Paradis. Charlotte Dumas」(Foam写真美術館、アムステルダム、2009年)、「「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展」(銀座メゾンエルメス フォーラム、東京)など。世界各地で作品を発表している。現在、アムステルダムを拠点に活動を行う。
https://www.charlottedumas.nl/

撮影:室岡小百合
インタビュー、文:深井佐和子