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現代銀座考

現代銀座考:Ⅶ 銀座の紫陽花

2020.08.04

写真/伊藤 昊

文、イラスト/森岡督行

 森岡書店代表の森岡督行さんが、過去の銀座と現在、そして未来の銀座をつなげる新しい物語です。
 時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。

 

 

銀座3丁目並木通り。現在のユニクロ前。駐車禁止の標識のところには、いま、紫陽花が植えられている。

 

Ⅶ: 銀座の紫陽花

 毎年、梅雨の時期になると、銀座には紫陽花が多いと感じていました。そこで、本年7月1日、どれくらいの数の紫陽花があるのか、総力をあげてカウントしてみました。

 カウントに協力してくれたのは、画家の朝比奈敦子さんとデザイナーの小澤修子さん。まずは森岡書店に集合しカウントする地域を決めました。銀座1丁目から3丁目は森岡、銀座4丁目から6丁目は朝比奈さん、銀座7丁目と8丁目は小澤さんが担当することに。紫陽花の数はLINEグループに入力していきます。花の数ではなく株を数えます。朝比奈さんから「私、ブルックナー(*1)好きなのですが、交響曲5番を聴きながら探してみませんか」という提案があり、了承されました。森岡書店を出発するときには、お互いの健闘を誓いあいました。

 しばらくすると、朝比奈さんからコメントがありました。
「いま銀座4丁目中央通りです。紫陽花はどこにも見あたらなく……。何かの間違いではないでしょうか」
「朝比奈さん、血眼になって探してください‼」私は語気を強めました。
「ラジャ」と朝比奈さんからの返信がきました。

 次に小澤さんからコメントがありました。
「いま昭和通り銀座7丁目歩道橋の上にいます。ここから、かなりの数の紫陽花が見えます」
「キタァー‼ 小澤さん、どんどんカウントしてください!」と私は返信しました。

 しばらくして、ややエキサイトした私がコメントを入れました。
「いま銀座3丁目外堀通りユニクロ前。非常に大きな紫陽花があり、これはすごい!」
 その紫陽花を写真に撮って、共有しました。
 この後、朝比奈さん、小澤さんからも、続々とカウントされた数値があがってきました。やはり銀座にはたくさんの紫陽花が咲いていたのです。

 開始から1時間30分が経った頃、ブルックナーの交響曲5番も終わり、私たちはあらかじめ集合場所に指定していた銀座7丁目の「銀座ウエスト」(*2)でおちあいました。ちょうどベートーベンの胸像の前に座りました。ウエイトレスの方にコーヒーのケーキセットを注文し、いよいよ集計発表。銀座の紫陽花の集計は以下のようになりました。「ダン、ドゥルルルルルルルル、ダーン」(ドラムロール)

外堀8丁目 11株
外堀通り7丁目 12株
外堀通り6丁目 18株
外堀通り5丁目 24株
外堀通り4丁目 0株
外堀通り3丁目 2株 大きい
外堀通り2丁目 10株
外堀通り1丁目 2株

並木通り1丁目 9株
並木通り2丁目 16株
並木通り3丁目 22株
並木通り4丁目 15株

花椿通り西 4株
交詢社通り西 26株
マロニエ通り東 3株
松屋通り東 6株
柳通り東 24株

昭和通り1丁目東 9株
昭和通り2丁目東 3株
昭和通り3丁目東 4株
昭和通り4丁目東 1株
昭和通り5丁目東 3株
昭和通り6丁目東 7株
昭和通り7丁目東 3株
昭和通り8丁目東 2株

昭和通り8丁目西 3株
昭和通り7丁目西 7株
昭和通り6丁目西 5株
昭和通り5丁目西 4株
昭和通り4丁目西 3株
昭和通り3丁目西 6株
昭和通り2丁目西 4株
昭和通り1丁目西 5株

「銀座には合計273株の紫陽花がありました」
「おお‼」「パチパチパチ」一同、控えめに拍手をしました。
「かつて銀座を紫陽花の咲く街にしようとした人がいたということでしょう」と朝比奈さんが冷静に言いました。
「銀座の中心部より周囲のほうが多い。だからあまり目立たない。ところで紫陽花の花言葉って何」と小澤さんが言いました。
検索した森岡は「代表的な花言葉は『移り気』。『一家団欒』という意味もある。確かに銀座にはどちらもある」と言いました。

 テーブルに運ばれてきたケーキは、朝比奈さんがシュークリームで、小澤さんがショートケーキ、森岡はサバラン。ケーキをいただく前に朝比奈さんが言いました。「ブルックナーは数を数えるのが好きで、並木の木の葉を一枚一枚数えていたらしい。もしブルックナーがいま銀座にいたら、私たちみたいに紫陽花を数えたかもね」。

*1 ブルックナー/アントン・ブルックナー (1824-1896)。19世紀後半に活躍した、オーストリアの作曲家でオルガニスト。交響曲と宗教音楽の大家として知られている。

*2 銀座ウエスト/洋菓子舗ウエスト 銀座本店。1947年創業の洋菓子店で、味はもちろんだが、気品にあふれながらも居心地の良い空間が幅広い世代の方から愛され続けている。中央区銀座7-3-6

クリエイターの紹介

伊藤 昊

写真家

いとう・こう 1943年大阪府生まれ。生後まもなく、両親と共に父親の実家のある宮城県涌谷町に疎開。6年生のときに、京都太秦の小学校に単身で転校。1955年に東京の明治学院中学校に入学。1961年に東京綜合写真専門学校に入学。1963年に卒業後、同校の教務部に就職。この頃に写真展を2度開催する。1968年に同校を退職し、フリーのカメラマンとなる。1978年に益子に移住し、塚本製陶所の研修生となる。1981年に築窯し陶芸家として独立。その後は晩年まで陶芸家として活動する。2015年に逝去。
5月5日に写真集『GINZA TOKYO 1964』が森岡書店より刊行された。
https://soken.moriokashoten.com/items/2dabee933141

森岡 督行

店主

森岡書店主。森岡書店代表。1974年山形県生まれ。著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972』(ビー・エヌ・エヌ新社)などがある。企画協力した展覧会に「そばにいる工芸」(資生堂ギャラリー)、「畏敬と工芸」(山形ビエンナーレ)などがある。近年は洋服などのプロデュースを手がけることも多い。株式会社森岡書店代表。『工芸青花』(新潮社)編集委員でもある。

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