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現代銀座考

現代銀座考 : XLIV 和光と時計

2022.03.08

写真/伊藤昊

文、イラスト/森岡督行

森岡書店代表の森岡督行さんが、銀座の過去、現在、そして未来をつなげる新しい物語です。時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。

 

 

和光のショーウインドウ前に立つ人。この時代も鐘が鳴っていただろう。

現代銀座考 : XLIV 

和光と時計

 愛用しているSEIKOの1960年代製ジャイロマーベルが動かなくなったので、和光(*1)で修理の相談をしました。和光には、修理を受け付けるカウンターが1階にあり、白衣を着た方が、時計の修理についてわかりやすく説明してくれました。
 私のジャイロマーベルは、オーバーホールをして、バネを取り替えたとしても、動く可能性は、やってみないとわからないとのことでした。手巻きのリューズがすでにかたくなっている。部品が摩耗している。動くようになったとしても1日、数十秒の誤差が生じるだろう。とていねいに教えてくれました。

 それでも、私は、修理に出してみることにしました。白衣を着た方は、しかるべき代金を私に提示して、そして、付け加えました。「3ヶ月くらいかかります。もし修理ができなかったら、お代はけっこうです」と。

 受領書をいただき、玄関に向かって歩いていると、エレベーター脇にチラシがあり、それには、「時計塔90年 感謝とともに」と書いてありました。和光の社屋は1932年に竣工したので、今年で築90年なのです。

 和光のHPを読んでみると、「時計塔の四方にある文字盤はほぼ正確に東西南北を向いています」という説明がありました。文字盤は直径2.4mでガラス製。地上から時計塔までの高さは39.39m。

 太陽は、もちろん、東の空からのぼり、南の空を通り、西の空に沈みます。東京の南中高度は、冬至でも31度はあるようです。4丁目交差点の南方には、56メートルのGINZA PLACE(*2)がありますが、試しに計算してみると、時計塔との高度角は24度ほど。南中の日光は、時計塔にあたります。つまり1日のうちで太陽が最も高くのぼる南中の頃、その日光を受けて、鐘が12回鳴り響く。当たり前の事実ではありますが、そう考えると、あたかも、日光のエネルギーが鐘の音と共に、時計塔から、銀座の街に放たれるイメージが広がります。もし、私に、その光景に名付けることが許されるのであれば、まさに「和光」と呼ぶでしょう。

 また、そうすると、和光を、日によっては、大きな日時計と見なすこともできるでしょう。上空から見れば、時計塔の避雷針の影が針となり、屋上の床に時刻を示しているとも。いずれにしても、銀座には、止まらなくて、正確で、美しい時計塔があるのは確かなことです。

 ちなみに、和光の2階では、Grand Seikoの腕時計をオーダーメイドすることができます。どこにもない一つの腕時計を1年以上かけてつくる。価格は15,000,000円(税別)から。いつか私もつくってみたいですが、まずは3ヶ月後にジャイルマーベルが手元に戻ってきたら、たとえ、少々時間が合わなくても、大事に使おうと思います。和光の時計塔と白衣を着た方への感謝と共に。

*1 銀座・和光/1881(明治14)年服部時計店(現セイコーホールディングス株式会社)創業。初代時計塔が完成したのは1894(明治27)年。二代目となる現在の時計塔は1932(昭和7)年6月に竣工。二代目時計塔竣工から90周年にあたる2022年の6月10日「時の記念日」に、和光本館から「SEIKO HOUSE GINZA」へと名称を変え、新たなセイコーブランドの発信拠点としてリニューアルオープン予定。
中央区銀座4-5-11

*2 GINZA PLACE/明日の銀座を創るランドマークをコンセプトに2016年に開業した、ショールームやレストラン、ビヤホールなどからなる商業施設。
中央区銀座5-8-1

 

クリエイターの紹介

伊藤 昊

写真家

いとう・こう 1943年大阪府生まれ。生後まもなく、両親と共に父親の実家のある宮城県涌谷町に疎開。6年生のときに、京都太秦の小学校に単身で転校。1955年に東京の明治学院中学校に入学。1961年に東京綜合写真専門学校に入学。1963年に卒業後、同校の教務部に就職。この頃に写真展を2度開催する。1968年に同校を退職し、フリーのカメラマンとなる。1978年に益子に移住し、塚本製陶所の研修生となる。1981年に築窯し陶芸家として独立。その後は晩年まで陶芸家として活動する。2015年に逝去。
5月5日に写真集『GINZA TOKYO 1964』が森岡書店より刊行された。
https://soken.moriokashoten.com/items/2dabee933141

森岡 督行

店主

森岡書店主。森岡書店代表。1974年山形県生まれ。著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972』(ビー・エヌ・エヌ新社)などがある。企画協力した展覧会に「そばにいる工芸」(資生堂ギャラリー)、「畏敬と工芸」(山形ビエンナーレ)などがある。近年は洋服などのプロデュースを手がけることも多い。株式会社森岡書店代表。『工芸青花』(新潮社)のウェブサイトにて「森岡書店日記」を連載中。

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