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Heart of Fashion

2020.11.05

「モノをつくる人が増えたら世界は平和になる。」―――横澤琴葉さんインタビュー

文/呉 佳子(資生堂ファッションディレクター)

毎年、前年6月からの一年間を通じて最も優れたデザイン活動を行った新人デザイナーに贈られる毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞。今年度は3月に予定されていたファッション・ウィーク東京が史上初の中止に追い込まれるなど、審査対象期間の終盤に新型コロナ感染症の影響が大きくそして痛烈な影を落とした。7月の選考会も初のリモート開催となるなか、モノ作りに向き合う真摯な姿勢と定石に縛られない柔軟な発想が評価され、賞を射止めたのが、横澤琴葉だ。

横澤琴葉さん
以上、Photography by Kohey Kanno

受賞の知らせを聞いた感想は?
横澤琴葉(以下、横澤):とても驚きました! 私が受賞なんて思ってもみなくて。この1年はプライベートでは出産など(2020年1月に第一子誕生)、さまざまな変化がありましたが、仕事ではとくに表立った成果はないというか。ECショップを始めたり、ビジネスの基盤を固めたり、とにかく環境を整える仕事が中心でした。もちろん今後のために重要な仕事でしたけれど。なので、今回の受賞はこれまでの実績も含めた上で、評価いただいたと思っています。出産も挟みましたが、やめずに続けていてよかった。
それに巷での人気が上がったことも評価してもらったのかな。kotohayokozawaを着てくださる方がここ一、二年でガッと増え、皆さんが街で広めてくれた。服だけでなく周辺の情報も含め興味をもってくれるお客さまが多いですね。私へのインタビューを読んだことがきっかけで、服を探してくれたり。

「自分はこういう人だよ」という内面の部分をどうやって外に出していくか、ということをいつも考えています。

受賞にあたってはモノづくりに対する姿勢が評価されました。
横澤:実は服を作るのにこだわっているわけではないんです。もしかしたら服ではなくて、ほかのモノでもいいかもしれない。でも常に何かモノをつくっていたい。
普通の生活をする上で、自分らしく振る舞うための努力。それが私にとってのモノづくりなんです。コミュニケーションのひとつの在り方というか。「自分はこういう人だよ」という内面の部分をどうやって外に出していくか、をいつも考えています。「ふだんはこう思われがちだけど、私にはこういう部分もある」とか「こんな出来事があってこういう気分になった」とか、それらを表現したいというのがモノづくりのモチベーション。言葉での表現は限られているので、振る舞いや態度などそれ以外の要素でどう補うか、に興味がある。服のスタイリングも自分との対話なんです。
その人の「人となり」がわかる瞬間が好き。自分の本質の部分を出すのに勇気がいるけど、本質が見え隠れする人のほうが絶対チャーミングじゃないですか。そういう本質を引き出しやすくするモノをつくっていきたい。昔から、全くのファンタジーだったり、現実味のないものには興味がないですね。

2020年秋冬コレクションルックブックより。
自分の心情をコーディネートに込め、気づいてもらおうとしたんですね。当時から服をコミュニケーションとして活用していたんだと思います。

ファッションに興味をもったのも幼いころから?
横澤:小学生のころから服を選んで組み合わせるのが好きでした。いろいろ試行錯誤しても、「今日はこれでばっちり」という境地には達しない。いつも反省があるんです。小3くらいから今までずっとなのできっと一生こうなんだろうなと思います。
小学生のころ、母親に怒られると、わざとすっごい変なコーディネート、絶対にありえないって組み合わせで服を着ました。自分の心情をコーディネートで表現し、まわりに気づいてもらおうとしたんですね。当時から服をコミュニケーションとして活用していたんだと思います。
実は自分の服(kotohayokozawa)はあまり着ません。着てみたい服がほかにたくさんあるので、私まで着なくてもいいかなって。古着も好き。その服の背景やコンセプトに共感するなど、本当に買うべき点が見つからない限りは、新品の服は買わないですね。

大義を背負ってやっているわけでもないんです。既につくられたモノがあれば、それを使うほうが近道というだけ。

サステナビリティへの意識はいつから?
横澤:昔からモノに対して「もったいない精神」があるんです。モノって簡単に買えるけれど、処分するにはお金も労力もかかる。それなのに服は、わりとあっさり簡単に捨てられてしまうし、サステナビリティという面では遅れています。服が大好きなので、一着でも無駄な扱いをするのは辛いこと。よっぽどの理由がなければ新しい服はいらない。何でもイチからつくらなければという考えにとらわれてもいません。
ただし、大義を背負ってやっているわけでもないんです。既につくられたモノがあれば、それを使うほうが近道というだけ。たとえばサンプルは商品じゃないから売れない、というのも普通におかしいなと。アレンジして新しい価値づけをすれば商品になる。「誰のためにやっているのか?」という考えに立ち戻って、買う人にとってスペシャルなモノになるのであれば問題ないと思います。「これはこういうもの」という決まりごとにただ従うのではなく、「こんなに捨ててはいけない」といった自然に湧き上がる気持ちを大事にしたい。利益だけを目的に走りたくないんです。

2019年秋冬コレクションではランウェイショーを開催。クリスマスをタイで過ごしたことがきっかけとなり、寒い季節でも真夏のようなヘルシーな装いを提案。

新型コロナ感染症の影響を受けて、ご自身の活動や思いに何か変化はありましたか?
横澤:今まで「なぜこれをやらねばならないのか」とふんわり思っていたことが、「やらなくて大丈夫!」と明確になりました。たとえば、わざわざ直接足を運んで、書類をもらったり提出したりって小さなことですが。
でもその気づきは大きくて、本当につくらないといけないもの、本当に会いたい人、本当にやらなきゃいけない仕事以外は、それほど重要じゃないということがわかった。
はじめての子育てでの気づきも同じです。意外だったんですが、子供が生まれても生活はそれほど変わらなくて。スケジュールは少し変化しても、自分の根本は変わりません。良くも悪くも自分のやりたいことや好きなモノへの思いがクリアに、そしてより強くなりました。貴重な時間や情熱は、それらを実現していくために使わなければと思います。

創作のスタートであるファーストシーズンの2015年秋冬コレクションより。「着ることでその人の振る舞いを制限してしまう服は苦手。何を着ても変わらず自分らしく(もしくはそれ以上に)振舞うことができる服がいいなといつも思っています」と語る横澤さんの初志が感じられる。

今後に向けて。
横澤:新卒から一年お世話になった大手アパレルでは、大企業ならではのやり方を目の当たりにしました。緻密なプロセスの積み重ねは圧倒的だった。ただ同時に、大きな組織でのモノづくりのスピード感と人々の気持ちの間には、解消し得ないタイムラグがあるとも感じました。
人の感情に訴えかけるモノづくりにおいては、「これで行こう!」となったらすぐに商品をつくり、感情の鮮度が高いまま届けることが大事。たとえ経験値が浅く資源が限られていても、私たちのような小回りの利くブランドにも勝ち目が残されていると思います。モノづくりの背景にあるエネルギーをこれからも届けていきたいです。

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「モノをつくる人は尊い。モノをつくる人が増えたら世の中は平和になる」というのが横澤の持論。新しい商品をつくることだけでなく、既存品に新たな価値を吹き込み、モノの選び方や組み合わせ方などコーディネートでも創意工夫を発揮する。先行き不透明な迷いの時代、未来に向けて何を手掛かりとすればよいか皆が答えを求める中、彼女のモノづくりへの姿勢と情熱がひときわ重要に思えた。

横澤琴葉

kotohayokozawaデザイナー。1991年名古屋生まれ。名古屋市内の高校のファッション科を卒業後、エスモード東京校に入学。卒業後は大手アパレルにデザイナーとして勤務しながら、ファッションデザイン学校「ここのがっこう」に通う。退職後、エスモードAMIでブランド運営を学び、2015年3月にkotohayokozawaをスタート。
https://kotohayokozawa.com/

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。
オンラインサロンcreative SHOWER でナビゲーターを始めました!
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