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Column

2019.03.29

世界サウナ紀行 Vol.11 Destination : Island of Lonna (Finland)

文、写真/大智由実子

イラスト/ほりゆりこ

Photo by Teemu Lautamies
全長150メートルの小さな可愛らしいロンナ島

唐突ですが私、「三度の飯より移動が好き」と言っても過言ではないほど移動することが大好きです。もちろん旅をすることが好きなのですが、旅の醍醐味は目的地で何かをするということよりも移動中のバスや電車から流れる景色をボーッと眺めているときだったりして、そんなときになんとも言えぬ幸せを感じるのです。そんな至福のひとときをサウナに入って心身共に調律された状態で過ごせたらどんなに幸福なことか! と夢見ていたらついに夢が現実に。前回のスウェーデンから次の目的地フィンランドへと向かう移動手段にフェリーを選んだのですが、なんとそのフェリーにはサウナがついていたのです。さすがサウナが盛んなバルト海周辺国を行き来するフェリーです。フェリーと言うよりは豪華客船と呼ぶにふさわしいその巨大な船に乗船するやいなや船内を探検していると見つけました、サウナへの入口を。入るとそこはジャグジーを中心とした、お風呂というよりは公衆プールのような空間が広がっています。皆さん水着を着ており、はしゃぎ回る子どもたちとお酒を飲みながらジャグジーでくつろぐ人々でごった返しています。「あれ? なんか求めていたのと違う……」と思いつつも受付を済ませロッカーで水着に着替えてシャワールームへ入ると、そこにサウナ室がありました。

船にサウナ!?夢のような贅沢な空間

 子どもと酔っぱらいでごった返していたジャグジーゾーンとは対照的に、サウナ室は空いていてそこには静寂が広がっていました。ひと安心してサウナ室へ入ると、中は薄暗くてちゃんとロウリュをするための桶と柄杓が置いてあり、室内のコンディションも悪くない。ただ、デッキから中が見えないように窓には木の格子がついており、その細い隙間からなんとか外の景色を眺めていました。それでもやはり移動する船のサウナ室から流れる景色を眺められるのは贅沢で穏やかなひととき。ロウリュもしてバッチリ汗をかいたらシャワーを浴びて水着を着てデッキに出ました。外気浴をしようと、ジャグジーゾーンを抜けて外のデッキに出ると、ゆっくり流れる遠くの景色とは裏腹に結構なスピードで走る船体に当たる強い風がほてった身体を冷ましてくれ、さらには360度広がる海と流れゆく陸の景色が目に飛び込んできます。「あぁ、これぞ求めていたもの」と、流れる景色を見ながら至福の時を過ごし、心身共に深い快感を噛みしめていました。そして船の中で一泊して、翌朝目覚めたらヘルシンキに到着です。

船が到着するのは夏限定のサウナの島

 さて、ヘルシンキについたら次に向かうのはロンナ島という小さな島にあるサウナ施設、その名もロンナ・サウナ(Lonna Sauna)です。ここは5月から9月の夏の間だけオープンするサウナで、ロンナ島へはヘルシンキ中心部のマーケット広場から水上バスで10分ほどでアクセスできます。この水上バスでの移動も外のデッキに出ると心地よい海風と離れ行くヘルシンキの街の景色を楽しめます。ロンナ島にはサウナ施設の他にもオーガニックレストランやコーヒーショップもあったりして、夏の間はローカルの人たちの人気のスポットだそうです。水上バスから島に降り立ったらまずはサウナの受付へ。事前に予約をしておいたので受付で利用料を支払うと、ロッカーキーと共にLONNAとロゴが入った水飲み用のコップとサウナ室のベンチに座る際にお尻の下に敷くリネンが入った可愛らしいバスケットが手渡されます。さすがフィンランド、グッズから細かなところまでデザインセンスが光り、いちいち唸らされます。お洒落バスケットを小脇に抱え、ウキウキと女性用ロッカールームに行き水着に着替えました。それまでドイツやスウェーデンの真っ裸サウナにようやく慣れたところだったので、サウナ室の中で水着を着るのが久しぶりで逆に新鮮に感じます。ここでは毎週火曜は男女ミックスの日になっているのですが、それ以外の日は男女のサウナ室は別々です。

Photo by Teemu Lautamies
海際の浅瀬に建つサウナ小屋

受付で手渡されるバスケットの中には水飲み用のコップと
お尻の下に敷くリネン。

 さて、水着に着替えてサウナ室のドアを開けると、薄暗い空間にいくつかの蛇口の下に木製のクラシックな桶が置いてあります。手前にひとつだけシャワーもあったのですが、どうやらここではオールドスタイルでの水浴びを推奨しているようなので、それに従い桶に水をためてかぶり、文字通り水浴びをして身体を清めてからサウナに入ることに。サウナはその水浴び場から階段で上った2階部分にロフトのような感じであります。階段を上るにつれ気温が高くなっていき、いい感じの予感がしてきます。ロフト部分に横に広がるサウナベンチに腰掛けると、目の前中央にある窓からは海が見え、暗いサウナ室内から見る外の明るい景色はまるで額装された美しい絵画のようです。最低限の照明で薄暗いサウナ室内はBGMも無く、ただただ目の前に海の景色が広がるだけ。たまに誰とも無くロウリュをしてくれて、静寂の中に「ジュワァァ〜〜〜」というサウナストーンの鳴き声が響き渡ります。そして、ここのサウナは全て薪で温められているサウナなので熱の肌当たりは優しくて、ひたすら無心で海を眺めているうちに心地よく発汗することができます。なんとも贅沢な時間です。

Photo by Teemu Lautamies
桶と柄杓で身体を洗うウォッシングルーム

サウナ以外も抜群 ローカルに愛される所以

 そして汗を流した後はサウナ室から外へ出て、目の前に広がる海で身体をクールダウンさせます。これまでにも他のフィンランドのサウナで海や湖に身体を沈めてクールダウンしたことはあったのですが、実はそれってちょっと怖かったんです。水が冷たそうで怖いというのもあるのですが、海や湖が深くて底が見えないので、手すりにつかまりながら入ったのですが、その手すりを離してしまったらどうなるのだろう……という恐怖心もあったのです。でもここは手前に浅瀬が広がっているので、いきなり底なしの深い海、という訳ではないので安心です。石や岩のある浅瀬に身体を浸してクールダウンしたら、岩の上に座ってキラキラと光を反射しながら波打つ海原をボーッと眺めていると、ときの経過を忘れてしまいそうになります。しかしサウナの1回の利用時間は2時間です。ハッと我に返って、またサウナ室へ戻り冷めた身体を優しく温め、窓から見える美しい景色を眺めながら発汗します。そしてまた海へ行き身体を冷やし、海を眺めて……もうその無限ループから抜け出せなくなります。しかし無情にも尊い2時間はあっという間に過ぎ去り、少し日が傾いてきてさっきまでとはまた違った色合いで輝く海原に後ろ髪を引かれつつ、海とサウナとスタッフに御礼を伝えてサウナを出ました。
 でもまだそこから先にもお楽しみが待っています。先にも触れましたがロンナにはレストランもあるので、そちらで美味しい料理をいただけるのです。しかも、オーガニックや自家栽培の新鮮な食材を使ったフィンランド料理が楽しめるというので期待も高まります。実はロンナ島を含む周辺の島々はスウェーデン王国の統治下であった18世紀半ばに海上要塞として建設され、1973年まで軍事目的で利用されており、現在ではユネスコ世界遺産にも登録されています。レストランとなっている建物も歴史を感じさせるレンガ造りの古い建物なのですが、今は明るく広々としたお洒落な空間に生まれ変わっています。そこでサーブされる料理も、お皿から盛りつけまで洒落ている上にお味もとっても美味でした。
 今では夏の間、サウナに入って美しい景色を楽しんだり、美味しい食事に舌鼓を打ったり、日光浴やピクニックを楽しむ人々の平和な光景が見られるのですが、200年以上前から長きにわたり戦争に翻弄されてきた歴史を想うと、より一層有り難さがわき上がってくるのでした。

オーガニックな食材を使いシンプルに仕上げた料理。
盛りつけも美しい。

Lonna Sauna
Lonnan saari, 00190 Helsinki, Finland
Tel: +358 44 7199409
http://www.lonna.fi/en/

※営業は夏期のみ。2019年は5/3から9/28まで。

大智由実子

ライター

洋書のディストリビューションを行うMARGINAL PRESSを立ち上げ、世界各国のインディペンデントマガジンやアートブックを日本に紹介。2016年よりサウナの魅力にはまる。趣味は世界のサウナ巡り。サウナ・スパ健康アドバイザーの資格も持つ。
https://www.marginal-press.com/

ほりゆりこ

イラストレーター

1978年大阪生まれ。デザインやイラストの本職のかたわら「大自然と一体化」をテーマに主に関西を拠点に活動するTent Sauna Partyに所属。著書にタナカカツキ(日本サウナ・スパ協会公認)との共著『はじめてのサウナ』がある。また、リトアニアのサウナハットアーティスト、ヴィクトリアからワークショップを受け「TSP式サウナハット」を考案・制作。お気に入りのサウナは「延羽の湯・鶴橋店」
http://tentsaunaparty.com/